SCAI PIRAMIDE にて、美術家 磯谷博史による個展『「さあ、もう行きなさい」鳥は言う「真実も度を越すと人間には耐えられないから」』が開催される。会期は、2021年8月19日(木)- 9月25日(土)。
磯谷博史は、iPhoneで撮影した気まぐれな実験や旅先の発見、宛名のない手紙のように行き交う親密でパーソナルな写真の数々、マットレスとマットレスの写真による反復的なインスタレーション、壁に描かれた動かない時計——特殊な方法を用いず、みずからの生活圏から拾い上げた素材で、鋭い状況の構成と知的パズルを生み出す。過去から未来へと一方向に進む時間軸のイメージに介入し、作品を通じて複数の視点を並べることで、現在の認識を揺さぶる創造的な手段を示してきた。
T・S・エリオットによる長編詩《四つの四重奏》(1943年)の一節を参照する本展は、こうした生活者の風景から文明への静かな警告となって立ち上がる。《活性》(2021年)では、5000年前の土器の破片を泥に戻し、バスケットボールほどの大きさの球体に焼き上げられている。時間が凝縮された古代の遺物を再編成する本作は、素材を均質化し、形態を純粋化する人工的な操作に特徴づけられている。創造が孕むある種の暴力性の提示と共に、古代と現代を攪拌することによって、作品が内包する時間と文脈を相互に更新し、知の再活性を促している。
飛行機の窓に貼り付けた菓子の敷紙、Tシャツの縫い目を通過したヒゲや山岳のように見える割れたガラスに至るまで、本展では様々な言語やイメージが駆け抜け、複層的な世界が同時に展開されていく。銀行員として働きながら詩作を続けたエリオットもまた、みずからが生きた現代の生活圏と記号が行き交うタイムレスな象徴世界を往来した美術家だった。「さあ、もう行きなさい」——詩に現れる鳥は、笑い声を忍ばせて戯れる子供達を横目に諭す。そして深遠な謎を残して頭上を過ぎ去っていく。過去から未来へと一方向に流れる時間という感覚から逃れるために必要なのは、このような鳥の視点なのかもしれない。
ぜひ足を運んでいただき、磯谷博史が生み出す知的パズルを体感してほしい。
磯谷博史 「さあ、もう行きなさい」鳥は言う「真実も度を越すと人間には耐えられないから」
会期 | 2021年8月19日(木) – 9月25日(土) 12:00-18:00
休廊日 | 月・火・水・祝日
会場 | SCAI PIRAMIDE (スカイピラミデ)
住所 | 106-0032 東京都港区六本木6-6-9ピラミデビル3F
www.scaithebathhouse.com
磯谷博史
1978年東京都生まれ。美術家。東京藝術大学建築科を卒業後、同大学大学院先端芸術表現科および、ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、アソシエイトリサーチプログラムで美術を学ぶ。写真、彫刻、ドローイング、それら相互の関わりを通して、事物への認識を再考している。プロジェクトスペース statements (2016〜2018)の共同ディレクター。
近年の主な展覧会に『インタラクション:響きあうこころ』(富山市ガラス美術館、富山/2020)、『Together We Stand』(Bendana | Pinel、パリ/2020)、『シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート』(ポーラ美術館、神奈川/2019)、『六本木クロッシング2019 : つないでみる』(森美術館、東京/2019)、『Le spectre du surréalisme』ポンピドゥー・センター40周年記念展(Atelier des Forges、アルル/2017)など。来春には、小海町高原美術館にて個展を控える。
主な作品の収蔵先に、ポンピドゥー・センター(パリ)、サンフランシスコ近代美術館(サンフランシスコ)など。