Naruki Oshima / Interview With Naruki Oshima
naruki_1.jpg(c) Naruki Oshima


H.P : www.naruki-oshima.org
Interview by arata sasaki


1963年大阪生まれの写真家[大島成己]。デュッセルドルフ芸術アカデミーにてトーマス・ルフに師事し、現在はドイツ:フォルツハイムと大阪を拠点に活動を行っている。過去、ドイツ、日本、ロッテルダム、ヴェネチアなどで数々のエキシビジョンに参加。作品は、国立国際美術館、京都市美術館他のコレクションともなっている。


Hitspaper:
ドイツ・デュッセルドルフ芸術アカデミーに在籍されていました。芸術を学ぶ上でドイツという土地をセレクションしたのは何故でしょうか?その経緯に至った理由を教えて下さい。
Narukiドイツを選んだのは、デュッセルドルフ芸術アカデミー出身のベッヒャースクールに興味があったからです。その中でもとりわけ先鋭的だったトーマス・ルフやヨルグ・ザッセと話がしたいと思ったのです。従って、特にドイツの文化、土地柄に惹かれたとかの理由ではなく、そこに彼らが居たから、話をしに行ったという感じです。もし彼らが別の国に居れば、そこに出向いて行ったと思います。


naruki_2.jpg(c) Naruki Oshima


Hitspaper:
昨年開設されたGyre内にあるWhite Room Galleryにリプレゼンされるように日本でもフォトグラフィカルチャーが注目されて来ています。例えば写真をアートとして購入するといった潮流など。
大島さんの眼に映る日本のフォトグラフィカルチャーをどの様なものなのでしょうか?
Naruki僕の場合、絵画からの展開で写真制作を開始し、美術の流れにおいて写真をずっと考えてきたので、日本の写真のメインストリームにおける問題意識と少しずれているのかなって思う事が時々、あります。僕は、自分の写真表現を、戦後美術の流れであるポップアート、コンセプチャルアートと言った系譜において考えてきました。それは、世界は既に映されてしまって我々はもう何も撮るべき対象は無いという断念を引き受けざるを得ない状況を前提にしています。一方で、日本の一般的な写真では、ドキュメント写真がまずありきの印象が強くあります。
 ただ、美術の文脈と写真のそれとが別の流れにあったとしても、今では完全にクロスオーバーされる地点が形成されつつあるのは確かで、写真が美術表現として確実に認知されてきました。でもヨーロッパと比較して、日本ではまだ認知度が低いように思えてなりませんが。



naruki_3.jpg(c) Naruki Oshima


Hitspaper:
大島さんのモニュメント作品といば都市や建築といった被写体が挙げれます。こういった被写体をセレクトする理由は何でしょうか?
Naruki都市、建築は僕らに、或る感覚の質のようなものが伴った様々な経験を与えているはずなのですが、日常的にはそれに気づかずに居るか、無意識にやり過ごしているかで終わっていて、僕が都市、建築を選択する理由には、その見過ごされた経験の有り様を増幅し持続したいと思うからです。例えば、ガラスの反射をモチーフにした「Reflections」シリーズは、デュッセルドルフの街を歩いていたときに着想しましたが、何層にも重なる風景イメージに自分自身がその層の空間に迷い込んでいくような不安定な感覚に解放感を覚えたのです。しかし、その不安定な感覚は、ショーウインドーに飾られている商品に注視することなどで、大抵は無視され、意識にのぼってきません。せっかく、現象的な空間に立ち会っているにも関わらず、いつものありきたりな空間へ解釈し、そこに落ち着いてしまうのが私たちの日常です。僕の仕事は、本来感じるであろう空間のあり方を持続させることにあります。日常的なあり方に逆らって、或る感覚の質を保持できるような映像的現象としての写真が目指されているのです。決して建築デザインのドキュメント写真ではないことは強調したいところです。


naruki_4.jpg(c) Naruki Oshima


Hitspaper:
自身の作品の伝えたいことは何でしょうか?
Naruki被写体の意味文脈が希薄になり、そこで現出する物の有り様を示すこと、これが、写真において僕が捉えたいこと、伝えたいことです。物と私たちの日常的な関係は常に同一的で、私たちが物を視ることとは、既に知っていることを確認しているだけであり、ポップアートが露呈させたような、意味の再生産、消費の繰り返しの世界に未だ私たちは生きているのが現実です。ただ、僕は、その閉じた世界の果てで現れるモダニズム特有の「真実」を見いだそうとしているのではありません。その世界に留まりながら、そこに揺らぎをもたらしたいのです。意味がブレ続けるような物の有り様を現出させたいだけなのです。



naruki_5.jpg(c) Naruki Oshima


Hitspaper:
日常的に視認されている物を、大島さん独自のコンシャス、アングルを介在させることで新たな距離感を提示しているように思います。作品を撮影する際、各々で既に着地点が見えているのでしょうか?
Naruki「新たな距離感」というのは非常に嬉しいご指摘です。日常的な距離感は常に安定的な空間設定が前提となり、これが準備されて初めて人は物を安心して認知することができる。しかし、僕の場合、この安定的な空間設定を困難にし、如何に不安定な空間を作るかに表現を向けていく訳です。そこでは、別の「距離感」が現出されてくる事が目指されます。
 「着地点」に関しては、撮影段階で、或る程度、作品の方向性としての手応えのようなものを感じながら撮影していますが、どちらかというと、プリントの段階になるまでその「着地点」が分からないと言うのが正直なところです。つまり、アングル、フレーミングなどの撮影段階のみならず、実際に映された何層に重なる風景イメージの色彩、明暗を調整し、層としての空間を整えるプリントの段階も非常に重要な作業なのです。「新たな距離感」を現出させるために、撮影からプリントまでの全プロセスにおいてのコントロールが必要です。


naruki_6.jpg(c) Naruki Oshima


Hitspaper:
人生のターニングポイントとなる瞬間、またフォトグラファーとしてのターニングポイントなる瞬間を挙げるとしたら何でしょうか?
Naruki「瞬間」とは言えませんが、ターニングポイントを上げるとすれば、二つあります。まず、絵画制作からの写真への転向です。ここで僕の表現の根幹が作られました。以前は画家になることを考えていて、それまで写真には全く興味がありませんでした。しかし、いざ自分が描こうにも絶対的に描くべき対象がないことに気付いたのです。延々と白い画面の前に何を描けば良いのか分からず途方に暮れてしまい、自分にとって絶対的な選択基準、価値などが全く無いことを悟ってしまう。或る意味、非常に絶望感に苛まれましたが、しかし考え方を逆転したら、何を信じていいのか分からない、この途方に暮れてしまうこと自体が僕にとっての最も切実な実感として考えるようになったのです。それを作品化しようと思い始めた頃、自分や、主体に依る絶対的な選択をとりあえず保留し、そこに関わらなくても制作できるメディアとしての写真に出会い、表現の可能性を考え始めるようになったのです。

もう一つのターニングポイントはドイツでのことでした。僕が海外にでる大きな理由には、自分のそれまでの仕事を相対的に考えたいと思ったからで、平たく言えば、作品の展開に手詰まり感を感じ、全てが煮詰まってどうしようもない状態にあったからなのです。それを打開したい一心でしたが、アカデミーの担当教授だったトーマス・ルフに出会えて本当に良かったと思えます。彼との対話は非常に刺激的で、彼には色々と示唆を与えてもらえました。ある時、ベッヒャースクールの思想的な背景を調べたいと思って、彼にどんな思想書を読んでいるのか質問したのです。彼は数人の哲学者、批評家の名を上げながらも、「君がそんな物を読む必要があるとは私には思えない。哲学は言葉として過去の感覚、世界観を巡るものであって、私たちアーティストはその次を生み出さなければならないだろう? 哲学書を読むことは悪いことじゃないけれど、それよりも、君は常にアバンギャルドであるべきだ!」と一喝されて、電気が走ったように閃くものがありました。そんな単純なことになぜ気付かなかったんだろうって。それは自作を哲学的な言葉で武装して、言葉にがんじがらめになってきたのではと薄々感じ始めていた時に言われたので、より一層と強烈に響いてきました。「今まで、なんて廻りくどく物事を捉えていたんだろうか」と言うことを悟るわけです。つまり、作家の思考のあり方は「やりたいことをどれだけ純度を上げて表現出来るか」に向けての「明確さ、合理性」をもってあらねばならないという極めて単純なことを彼に教えられたと思えています。僕はそのとき、自分の足下を見直して、流行に流されず、もう一度、じっくりと自分のベーシックな事をやり直そうと決意しました。


naruki_7.jpg(c) Naruki Oshima


Hitspaper:
フォトグラファーにとって最も大切な要素は何だと考えますか?
Naruki僕は自分のことをフォトグラファーとは思っていないので、的はずれな答えになってしまうのかもしれませんが、世界は実は多様な有り様が錯綜していて、僕らはその一面しか視ていないということをまず認識することだと考えています。被写体とのお決まりの関係を疑うこと、別の関係の取り方を様々な可能性において考えていこうとすることが大切なのでは。



Hitspaper:
大島成己という人物を形成する上で欠かせないバックボーンとなる要素を教えて下さい。
Narukiなんでしょう。考えたこともありませんが、絶望をおおらかに受け入れることでしょうか。
僕は生まれも育ちも大阪なんですが、大阪人のポジティブさを環境的に受け継いでいるかもしれません。


naruki_8.jpg(c) Naruki Oshima


Hitspaper:
最後に写真家を目指す若い人に何かメッセージを戴けますか?
Narukiセンスがいいとか、美しい作品を作れるとか、そんなことは本当に些末で、どうでも良いことです。
「制作しなければ、俺の人生やりきれない」って思えることこそが本当の才能だと僕は強く信じています。そんな人は、どんな不遇の状況も乗り越えることができる。つまり、アーティストに求められるのは、全てが相対的で無根拠である世界を強く生き抜くことができると言うことでしょう。





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