BOOK REVIEW / BIRTH
(c)2008 Seiji Shibuya
Official H.P:www.seijishibuya.com/(seiji shibuya)
Official H.P:www.akaaka.com/(赤々舎)
text by subaru matsukura
---
凛と静まり返った空気。
目の前には音もなく揺れる湖。そっとすくいあげる湖畔の水。
手には驚くぐらいの透明度を魅せる優しい温もりを持つ水が、美しく揺らめいている。
そこはいったはずのない場所、でも世界のどこかには確実に存在している場所。
澁谷征司の作品はそんな世界へ導いてくれる。
それが部屋の中であろうと、公園のベンチだろうと、はたまたどこかの書店であろうと。
彼の写真の不思議な力。写真の向こう側へ導く力。
私は気持ちを高揚させたい時。決まって音楽を聴く。
逆に心を落ち着かせたいときは、いつも決まってこの本を開く。
待望の澁谷征司作品集「BIRTH」が赤々舎よりリリースされた。
(c)2008 Seiji Shibuya
「未体験の追体験、アニミズム」
澁谷征司の写真と出会った時の衝撃は、体験さえしていない体験を想起させるものだった。
一見、海外フォトグラファーを思わせる作品群だが、この「BIRTH」を眺めていると
一貫して彼にしか捉えることができないものを感じる。
それは言及することはできない、どこか日本人特有のアニミズム。
目に見えない、存在こそしていないが、たしかにそこに存在しているもの。
未視感ともいえるような、だがどこかで感じたことのあるような風景。
例えばファインダーの向こう側に広がる自然や静かにたたずむ人たち。
そんな有限・無限を問わない万物との「関係性」を捉えているのではないだろうか。
その関係性は、人との対話であったり、自然との共存であったり、確かにそこに静か浮遊する存在。
とても身近でいて、決して目にすることが出来ない存在。
彼の写真には、そのようなものが息づき、存在している。
(c)2008 Seiji Shibuya
彼の写真を眺めていると、そこで交わされる会話やそこに流れる空気、木々の揺らめきが手に取るように感じられる。
誰もいないはずのその空間に誰かが存在(いた)、その空気のゆらぎを感じずにはいられない。
優れたフォトグラファーというのは、その場の臨場感やそこに存在していたであろう温もり、関係性、つまりはそこにまつわる過去や未来をも想起させる作品が多い。
誰もいないスタジオ。そっと演奏者を待つように佇むピアノ。等間隔に並ぶスタジオマイク。
そして、そこに差し込む太陽光。そのどれもがその空間とそこへ繋がる人々との関係性を写しだしている。
「静寂」
彼の写真の特徴として、多くの読者が感じているかもしれない。
とても澄んだ「静寂」が彼の作品には流れている。
ファインダーの向こう側が人であろうと自然であろうと、優しく暖かい静寂が、それらを覆っている。
(c)2008 Seiji Shibuya
その静寂にしばらく心を傾けていると写真から、静かに音が流れだす。
人々の他愛もない会話や川が静かに流れる音。その音は、決して大きな音ではないが、
彼が写し出す静寂の世界にそっと寄り添うように美しく流れる。
無論、音など聴こえることはないのだが、そこに音が当たり前のようにあったかのような体験を読者にもたらす。
まるで魔法のような瞬間。私はこの瞬間に何度、酔いしれたことか。
(c)2008 Seiji Shibuya
人や木々、大地を流れる水、万物を貫いて彼が捉える一瞬一瞬は、
私たちがどこにいようと、いつでも、どこへでもあの場所へ導いてくれる。
その静寂の世界に腰掛けて、ペラペラとこの「BIRTH」を眺めることが私の至福のときでもある。
この作品集に収められている作品は、1997年から2006年までの約10年間、
コツコツと撮りためられた澁谷征司の誕生ともとらえられる作品群だ。
「BIRTH」という言葉には“誕生”という意味の他に”起源”という意味も含まれている。
何かここから新しい日本のフォトグラファーとして在り方が歩き出すような、そんな期待感すら感じずにはいられない。
さらに読者である私たちの心に何か暖かいものをそっと生みおとしていく。
それは静かにだが暖かく浮遊するやさしい存在。静寂な温もり。
澁谷征司にとっての「BIRTH」でありながら、私たちにとっての「BIRTH」。
「静寂」という言葉は、「静けさ」と「寂しさ」という二つの意味によって形成されている。
「静けさ」というのは、彼が捉える瞬間の独特の雰囲気。
「寂しさ」というのは、人々の温もりや関係性があってこそ生まれる感情。
彼の作品がまとう独特の「静けさ」と、その先にあるであろう温もりを含んだ「寂しさ」。
これほどまで、決して目に見えぬ、手では掴まえられぬ存在を捉えた写真を見たことがない。
(c)2008 Seiji Shibuya
忙しい日常から一瞬だけでも歩みを止めて、澁谷征司の世界に触れていただきたい。
彼の写真が、あなたを別世界へと導いてくれるだろう。温もりのある静寂な世界へ。
どうかこの優しい静寂があなたの手元へも届きますように。
---
書名:BIRTH Seiji Shibuya
著者:Seiji Shibuya 澁谷征司
アートディレクション:Kazuya Kondo 近藤一弥
言語:Japanese/English
発売:January 2008
価格:5,250yen
28.5 x 32 cm / 132ページ、オールカラー版
ISBN:978-4-903545-24-0 C0072

(c)2008 Seiji ShibuyaOfficial H.P:www.seijishibuya.com/(seiji shibuya)
Official H.P:www.akaaka.com/(赤々舎)
text by subaru matsukura
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凛と静まり返った空気。
目の前には音もなく揺れる湖。そっとすくいあげる湖畔の水。
手には驚くぐらいの透明度を魅せる優しい温もりを持つ水が、美しく揺らめいている。
そこはいったはずのない場所、でも世界のどこかには確実に存在している場所。
澁谷征司の作品はそんな世界へ導いてくれる。
それが部屋の中であろうと、公園のベンチだろうと、はたまたどこかの書店であろうと。
彼の写真の不思議な力。写真の向こう側へ導く力。
私は気持ちを高揚させたい時。決まって音楽を聴く。
逆に心を落ち着かせたいときは、いつも決まってこの本を開く。
待望の澁谷征司作品集「BIRTH」が赤々舎よりリリースされた。
(c)2008 Seiji Shibuya「未体験の追体験、アニミズム」
澁谷征司の写真と出会った時の衝撃は、体験さえしていない体験を想起させるものだった。
一見、海外フォトグラファーを思わせる作品群だが、この「BIRTH」を眺めていると
一貫して彼にしか捉えることができないものを感じる。
それは言及することはできない、どこか日本人特有のアニミズム。
目に見えない、存在こそしていないが、たしかにそこに存在しているもの。
未視感ともいえるような、だがどこかで感じたことのあるような風景。
例えばファインダーの向こう側に広がる自然や静かにたたずむ人たち。
そんな有限・無限を問わない万物との「関係性」を捉えているのではないだろうか。
その関係性は、人との対話であったり、自然との共存であったり、確かにそこに静か浮遊する存在。
とても身近でいて、決して目にすることが出来ない存在。
彼の写真には、そのようなものが息づき、存在している。
(c)2008 Seiji Shibuya彼の写真を眺めていると、そこで交わされる会話やそこに流れる空気、木々の揺らめきが手に取るように感じられる。
誰もいないはずのその空間に誰かが存在(いた)、その空気のゆらぎを感じずにはいられない。
優れたフォトグラファーというのは、その場の臨場感やそこに存在していたであろう温もり、関係性、つまりはそこにまつわる過去や未来をも想起させる作品が多い。
誰もいないスタジオ。そっと演奏者を待つように佇むピアノ。等間隔に並ぶスタジオマイク。
そして、そこに差し込む太陽光。そのどれもがその空間とそこへ繋がる人々との関係性を写しだしている。
「静寂」
彼の写真の特徴として、多くの読者が感じているかもしれない。
とても澄んだ「静寂」が彼の作品には流れている。
ファインダーの向こう側が人であろうと自然であろうと、優しく暖かい静寂が、それらを覆っている。
(c)2008 Seiji Shibuyaその静寂にしばらく心を傾けていると写真から、静かに音が流れだす。
人々の他愛もない会話や川が静かに流れる音。その音は、決して大きな音ではないが、
彼が写し出す静寂の世界にそっと寄り添うように美しく流れる。
無論、音など聴こえることはないのだが、そこに音が当たり前のようにあったかのような体験を読者にもたらす。
まるで魔法のような瞬間。私はこの瞬間に何度、酔いしれたことか。
(c)2008 Seiji Shibuya人や木々、大地を流れる水、万物を貫いて彼が捉える一瞬一瞬は、
私たちがどこにいようと、いつでも、どこへでもあの場所へ導いてくれる。
その静寂の世界に腰掛けて、ペラペラとこの「BIRTH」を眺めることが私の至福のときでもある。
この作品集に収められている作品は、1997年から2006年までの約10年間、
コツコツと撮りためられた澁谷征司の誕生ともとらえられる作品群だ。
「BIRTH」という言葉には“誕生”という意味の他に”起源”という意味も含まれている。
何かここから新しい日本のフォトグラファーとして在り方が歩き出すような、そんな期待感すら感じずにはいられない。
さらに読者である私たちの心に何か暖かいものをそっと生みおとしていく。
それは静かにだが暖かく浮遊するやさしい存在。静寂な温もり。
澁谷征司にとっての「BIRTH」でありながら、私たちにとっての「BIRTH」。
「静寂」という言葉は、「静けさ」と「寂しさ」という二つの意味によって形成されている。
「静けさ」というのは、彼が捉える瞬間の独特の雰囲気。
「寂しさ」というのは、人々の温もりや関係性があってこそ生まれる感情。
彼の作品がまとう独特の「静けさ」と、その先にあるであろう温もりを含んだ「寂しさ」。
これほどまで、決して目に見えぬ、手では掴まえられぬ存在を捉えた写真を見たことがない。
(c)2008 Seiji Shibuya忙しい日常から一瞬だけでも歩みを止めて、澁谷征司の世界に触れていただきたい。
彼の写真が、あなたを別世界へと導いてくれるだろう。温もりのある静寂な世界へ。
どうかこの優しい静寂があなたの手元へも届きますように。
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書名:BIRTH Seiji Shibuya
著者:Seiji Shibuya 澁谷征司
アートディレクション:Kazuya Kondo 近藤一弥
言語:Japanese/English
発売:January 2008
価格:5,250yen
28.5 x 32 cm / 132ページ、オールカラー版
ISBN:978-4-903545-24-0 C0072
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