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JTQ 10th ANNIVERSARY ARTIST BOOK
Junji Tanigawa The Space Composer
谷川じゅんじ テセウス・チャン


Photography by Yoshiaki Tsutsui

text by Mutsuko Funada

2002年より「空間をメディアにしたメッセージの伝達」という理念をもとに、コミュニケーションを創造する場作りをしてきたJTQが、今年設立10周年を迎え、クリエイティブの軌跡を記録したアートブック「Junji Tanigawa, The Space Composer」を刊行する。JTQ代表、またスペースコンポーザーとして国内外で幅広く活動している谷川じゅんじ氏の10年間に渡る活動の記録だ。 デザインを担当したのは、シンガポールを代表するクリエイティブディレクターのテセウス・チャン氏。自身が立ち上げたデザインユニット「WORK」では、インデペンデントヴィジュアル誌「WERK」を刊行し、また2004年には東南アジア初のコム・デ・ギャルソンのゲリラストアを運営、また日本では「LOUIS VUITTON – YAYOI KUSAMA」のファインブックで注目を集めた。 空間を創造する谷川氏と、雑誌媒体を中心にクリエイションの限界に挑戦するテセウス氏が紡ぎだすクリエイティブブックの傑作の誕生に注目が集まっている。


本をめくる、体験する。JTQ 10th anniversary artist bookの映像。




本の表紙はガーゼが貼り付けられており、製本もシンガポールで全て手作業で制作されている。一つとして同じ本は存在しない。本の制作にあたり、谷川氏は自身の子どもの頃の体験を想起したそうだ。


谷川:実家から、母が昔の日記を見つけて送ってくれました。毎日が飛び出す絵本になっていた日記を手にとった瞬間、完全に忘れていた記憶がぶわーっと蘇ったんです。瞬間の出来事やそれを留めたいと願った幼い頃の自分の感情とかが一気に。この感情をテセウスに伝えないわけにはいかないなと、その日記を急いで写真に取って彼に送りました。

テセウス:谷川さんは本当に良く自分の子どもの頃の出来事を空間的に表現していました。最初に彼が僕のところに本という形で表現するのに力を貸して欲しいと言ってきてくれたことには驚きました。送ってもらった日記帳の写真を見て、お話を聞いて、谷川さんの子どもの頃の夢を擬態化させたいと思ったんです。表紙に使用したモスリン布地(ガーゼ)は、建築の図面のように見えるようランダムなパターンで裁断されています。 また谷川さんの子どもの頃のお話に繋がるものとして、本の間に日記帳をモチーフとしたポップアップや挿絵、切り抜きが差し込まれていて、細部はハサミで切ったように再現されています。

ページの端は粗くなっており、ページをめくる度にその質感の良さを感じ、楽しむことが出来る。テセウス氏がこだわったデザインの一つだ。 本をめくる度に現れる切り抜きや挿絵に、子どもの頃の夢を蘇らせる体験は、空間が織りなす体験を蘇らせたいという谷川氏の思いが詰まっている。子供の頃の絵日記は、まだ色褪せることなく記憶を鮮やかに蘇らせてくれる。めくる度に体験する新たな本の面白さに出会える。まさに空間の織りなす一期一会と通じる。





自身の記録をどう留めるか?空間を創造し最新技術を用いてメッセージを発信し続ける谷川氏が、数ある媒体の中で選んだ方法は、最も古典的とも言える「本」だった。人間が直接手に触れて感じ、人と共に歴史を刻んでゆく本には、空間が人々に与える体験とリンクする部分があるように感じる。


テセウス:本というものは、読者の用途による進化を持ち合わせているべきだと感じていて、時間と共に新たな形態に置き換わっていくものだと思っています。

谷川:僕らは空間という持ち帰ることの出来ない価値を生み出しています。空間は自分の労力を費やし、わざわざ赴いて行かなければ感じることの出来ない価値、空間が生み出す体験です。その体験の生み出すエネルギーこそが空間の印象であり、訪れた人だけが持ち帰ることの出来る記憶です。この仕事を残す手法として、質量を伴った「本」という形態以外を考えることが出来ませんでした。 まさに一期一会を表現するために、複製出来ない唯一性が必要だったんです。

人間と空間の関係、人間と本の関係は大きな共通点を持ち合わせている。その時に肌で直接感じた記憶を、本に触れて蘇らせるという行為は『「空間」の生き方』と表現出来るのではないだろうか。媒体を変えながら人々の記憶の中で永遠に生き続ける。空間も本も、人間と共に歴史を刻み、互いが影響し合いながら生き続けるのだろう。





谷川:空間は体験、場はエネルギーです。今回の本の編集にはいくつかの試みがあります。様々なプロジェクトは記録として綴られていません。時系列という概念は消失し、感覚的に編成されたヴィジュアルは曖昧にしまい込まれた、記憶の戸棚を心地よく刺激してくれます。いいものに触れた時に感じるピュアな浄化感。爆発的なエネルギーに圧倒され、包み込まれたあとの虚脱感。上気した人々の感情のうねりに身を任せたあとの余韻。空間ごとに異なる時間や場面が、生み出した感情の変化を誌面を通じて感じていただけたなら、それこそが空間が永遠に存在するということになるのでは、と思います。





谷川:直接的に触れることや感じること、その主体が持つエネルギーの波動を直接感じ、自分自身をそのグルーヴの中に置くことが叶う、それこそが空間の価値です。存在するエネルギーに直接触れること。人間そのものが生まれた瞬間から持ちうる生きる力に直接作用するべきものだと考えます。残るものではなく残すもの。質量を伴った形の世界に生まれる経年という現象や、変質という現象は、人が生き死んでいく様に似ています。僕はこの極めてアナログな編纂物に、極めて深い愛情を抱きますし、ずっとそばにあって欲しいと思います。 空間という産物が人が身体を伴う限り無くならないように、本という産物もなくならないでしょう。その関係は、一期一会の体験としてこれからも世界のあちらこちらで生まれ続けるのだと思います。

テセウス:持続的に本の伝達方法を見つけていくというのが僕の仕事に対するアプローチです。プロジェクトを始動する際に、断固としたアイデアはほとんどありません。自由であることがクリエーションにおいて究極に大切なことだと思っています。


例えどんなに技術が進歩し、人々の生活がより豊かに暮らしやすく、クリエイティブなライフスタイルを送ることがより可能になったとしても、人は直接手に触れて感じることの出来る質量しか信じないだろう。肉体で直接感じた記憶は、質量を伴ったものでのみ蘇らせることが出来る。空間という一種の儚い体験は、形を変え永遠に人々の心の記憶の中で生き続けるのだ。 一つ一つ全て手作業で作られた今回のアートブックには一つとして同じものはない。ページをめくる度に突然出てくる挿絵や切り抜きが、新たな体験を演出してくれる。谷川氏とテセウス氏の作り出した一期一会の体験を、是非自身の手で感じてみて欲しい。






Junji Tanigawa, The Space Composer

著者:谷川じゅんじ (JTQ)
ブックデザイン:テセウス・チャン (WORK)
体裁:A4変形判
ページ数:400ページ
出版社:Page One Publishing (シンガポール)
発売日:2013年1月25日
取扱書店:代官山 蔦屋書店 他
価格:8,800円 (税込)
問い合わせ:JTQ Tel: 03-3711-9499 / e-mail: info@jtq.jp

代官山蔦屋オンラインストア
http://tsite.jp/daikanyama/ec/tsutaya/products/27075/



谷川じゅんじ

スペースコンポーザー JTQ株式会社代表
1965年生まれ。2002年、空間クリエイティブカンパニー・JTQ設立。「空間をメディアにしたメッセージの伝達」をテーマにイベント、エキシビション、インスタレーション、商空間開発など目的にあわせたコミュニケーションテクストを構築、デザインと機能の二面からクリエイティブ・ディレクションを行う。主な仕事に、KRUG bottle cooler(2011)、平城遷都1300年祭記念薬師寺ひかり絵巻(2010)、パリルーブル宮装飾美術館 Kansei展(09)、グッドデザインエキスポ (07-12)、JAPAN BRAND EXHIBITION(07)、文化庁メディア芸術祭(05-08)などがある。
DDA 大賞受賞、優秀賞受賞、奨励賞受賞、他入賞多数。
www.jtq.jp



テセウス・チャン(Theseus Chan)

クリエイティブ・ディレクター WORK代表
1961年シンガポール生まれ。マッキャン・エリクソンなどを経て、97年に広告・デザイン・ファッション・出版の枠を超えて活動するデザイン・オフィスWORKを設立。2000年に創刊した「WERK」は、印刷技術の限界に挑むインデペンデント・マガジンとして、世界中に熱狂的なファンを持つ。04年から09年にかけて、東南アジアで唯一のコム・デ・ギャルソン ゲリラストアを運営。06年、シンガポール・プレジデンツ・デザイン・アワード受賞。09年「WERK」16号でD&AD賞イエローペンシル受賞。日本では、ルイ・ヴィトンと草間彌生コラボレーションを記念し、制作されたファインブック「LOUIS VUITTON – YAYOI KUSAMA」(2012/発行:ルイ・ヴィトン ジャパン)で注目を集めた。2012年12月、ggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)にて、日本初の個展となる『ヴェルク No. 20 銀座:THE EXTREMITIES OF THE PRINTED MATTER』を開催。
www.workwerk.com

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