Recommend
Recent Article
Open Close

Music Features : ECM RECORD
「沈黙の次に美しい音」を創造し続けるミュンヘンの音楽レーベル




 世界で評価を受ける高品質な音を提供し続ける音楽レーベルに焦点を充てる音楽特集。
今回は、ジャズやコンテンポラリー・ミュージックから古典音楽まで、レーベルとして世界中に熱狂的なファンを持つドイツ ミュンヘンの[ECM RECORD]。既に日本でもジャズやコンテンポラリー・ミュージックを愛するリスナーにとっては、有名すぎる位のレーベルではあるが、『The Most Beautiful Sound Next To Silence (沈黙の次に美しい音)』というレーベルが目指す理念は、日本の侘び寂びにも似たミニマムな美意識が根底にあり、是非多くの日本の方に知って戴きたいという想いがある。

 [ECM RECORD]は、過去ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のオーケストラでコントラバスを務めるなど音楽家として活動を続けていたマンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)が創設したレコードレーベル。1969年から活動をスタートした[ECM RECORD]の最大の特長は、レーベルが持つ哲学性にある。『The Most Beautiful Sound Next To Silence (沈黙の次に美しい音)』という理念は、長年に渡るレコードリリースでも揺らぐ事がなく継続され、多くの著名人や大物音楽家、音楽愛好家にインスピレーションを与え続けている。沈黙と音という対比によって産み出される音楽性は、ジャケットデザインに於けるインターフェイスに於いても規律が保たれている。多くのアーティストが過去[ECM RECORD]に所属していたが、今回はその中からHITSPAPERがお薦めするアーティストを紹介したい。



Svante Henryson & Ketil Bjornstad

© Hans Fredrik Asbjörn, ECM


 チェリストのスヴァンテ・ヘンリソン (Svante Henryson) とピアニストであるケティル・ビヨルンスタ (Ketil Bjornstad) のデュオ。
 昨年[ECM RECORD] からリリースされた彼らのアルバム『Night Song』は、オーストリアの作曲家フランツ・シューベルトに捧げられたものであり、日没から夜明けまでをピアノとチェロが有機体のように相互に活かし活かされつつ奏でられている。耳を澄まして旋律と伴奏を聴くと、確かに互いに奢ることなく溶け合っている。旋律をリードして引っ張ったり、時には引っ張られてるという何とも息の合った演奏だ。まさに各々が持つ成熟した心象世界のシンクロシニティと各々が持つ円熟したスキルがこのアルバムの世界観に調和を齎している。また、各曲のタイトルがミニマムでリスナーに多くの思考する余白を残していることにも注目したい。一夜の中で繰り広げられる “Reticence=寡黙”、”Share=共有”、”Melting Ice=氷解”、”Serene=憂いのない”、”Chain=連鎖”(すべてアルバム内のタイトル) などの一連の過程は、夜が起伏ある人生のメタファーとして表現されており、非常に哲学的なな作品に仕上がっている。

iTunes: http://itunes.apple.com/jp/album/night-song/id411774014
ECM: http://player.ecmrecords.com/night-song



Nik Bartsch’s ronin

© Martin Moell,ECM

 ECMに於けるミニマル・ミュージックを代表するグループの一つスイス出身のニック・ベルチェ・ローニン (Nik Bartsch’s ronin)。
2006年のアルバム [Stoa] からECMでは、通算3枚のアルバム [Holon] と [Llyria] をリリースしている。彼らの曲のタイトルはすべて Modul + Number の組み合わせで構成され、そのミニマムな思考が名前にも顕われている。曲自体もフランスの作曲家エリック・サティが提唱した室内音楽を指す『家具の音楽』に倣うかのような、日常生活にするりと入り込んで来るようなシンプルなもの。東京の都心では、大音響が辺りを支配し、各々がコマーシャルの為に大音量で注意を惹こうと躍起になるが、ニック・ベルチェ・ローニンの音楽を聴くと(流しているといった方が正しいもしれない) “意識的に聴かれない音楽”が、逆説的に人を惹き付ける事を諭しているかのように感じる。因に、ニック・ベルチェは日本贔屓の音楽家で日本に一時期滞在した事があり、ローニンとは浪人を指しているらしい。

iTunes: http://itunes.apple.com/jp/album/holon/id272039734
ECM: http://player.ecmrecords.com/baertsch




Colin Vallon, Patrice Moret & Samuel Rohrer

© Nadia F. Romanini, ECM

 昨年リリースした“Rruga”というアルバムが、ECM RECORDデビューとなったコリン・バロン(Colin Vallon)、パトライス・モレ(Patrice Moret)、サミュエル・ロハール(Samuel Rohrer)のトリオ。
 リーダーであるコリン・バロンが、1999年に自身のトリオグループを結成した後、パトライス、サミュエルが2004年に参加する形でスタートしている。3人の音楽家はそれぞれ作曲家であり、ECM RECORD創立者であるマンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)自身がプロデューサーを務めている。“Rruga”は、道や旅を意味するアルバニア語で、彼らのユニークな視点からメロディー、テクスチャー、ダイナミズムによる美しいフローが集約されたタイトル名となっている。名前の由来は、スイスのジャズ・シーンを経験した後に、5年にも及ぶ旅行で各国のジャズの伝統に触れると同時に、地球上でもっとも民族的に多様な地域のコーカサスの音楽に多大なる影響を受けた為だという。これは、モダンジャズとコーカサス音楽という邂逅を意味し、近年のモダンジャズ・トリオの慣例に疑問を呈する作品ともなっている。

iTunes: http://itunes.apple.com/jp/album/rruga/id411776824
ECM: http://player.ecmrecords.com/vallon



Marcin Wasilewski Trio

© Tomasz Sikora

 ECMでは3枚のアルバムをリリースしているポーランドのマルチン・ボシレフスキ・トリオ(Marcin Wasilewski Trio)。
10代の頃に結成されたトリオで、現在30代となっているトリオは既に20年近い年月を共に音楽を創り続けて来たことになる。 ポーランドといえば、第二次世界大戦後、スターリン時代の圧政によって音楽・藝術・文化が押さえ込まれた歴史があり、スターリンの死去後、前衛藝術を積極的に吸収した国で、その文化の反動は「ポーランド楽派」と呼ばれ、グループ49やジェネーション51など同世代の若手作家がトリオを組んで活発に音楽活動を行った歴史を持つ。決して派手さがある音楽ではないが、力強いエネジーと叙情性が混成された穏やかながら芯の強い音色は、リアリティに迫るもの。2011年にリリースしたアルバム「faithful」では、現代音楽の社会的機能を考察した音楽上の思想家ハンス・アイスラー“An den kleinen Radioapparat”への新たなアプローチ手法を探求するという意義深いものでもあった。

iTunes: http://itunes.apple.com/jp/album/january/id270577325
ECM: http://player.ecmrecords.com/wasilewski




 今回4組のアーティストを紹介したが、どのアーティストをピックアップしてもクオリティは保証されているといっても過言ではないECM RECORD。レーベルにファンが付いている事実はそれを如実に物語っている。
 新旧はもとより、著名なキース・ジャレットから無名の若手までと幅広いアーティスト群は、掘り下げることで未知なる上質の音楽に触れることが出来る。また、嬉しいことに2010年位に河出書房新社よりECM40年の軌跡を収めた世界初の完全カタログが刊行されている。684ページに渡る内容にはディスクレビューを始め、美しいジャケットが収められ何とも豪華な本に仕上がっている。ECMと原盤契約を結び、日本にECMを持ち込んだケニー稲岡氏に感謝をしなければならない。Amazon等で購入出来るので是非チェックして見てはいかがだろうか。





参考文献 :

・『ECM Catalog』 (河出書房新社) http://amzn.to/R7picE
・『”家具の音楽”とカタログの音楽』(ダリウス・ミヨー、三浦淳史訳)

Concierge
Editor:
avatar

hitspaper

Facebook