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Review: Art & Agenda -POLITICAL ART AND ACTIVISM-


Art & Agenda (c) 2012 Gestalten, Berlin

text by arata sasaki

 人類史を紐解くと、政治・社会的イデオロギーに於いて、藝術は決して少なくない影響を及ぼしている。
 ナチスが近代美術の藝術観を否定する為に打ち出した退廃藝術では、ユダヤ人やスラブ人の文化を劣等と看做し国内のイデオロギー形成を行い、ソビエト連邦の社会主義リアリズムは、美術・音楽・文学の表現方法が国民の教育・思想の根幹を作り社会主義の賞賛に力を貸した史実があり、藝術が善くも悪くも一役買って来た。それは、政治によるプロパガンダと同様に群集心理を巧みに操り、思想を束ねる旗印のような役割である。
 一方、藝術の役割のもう一つ側面として、或る種の政治・社会のイデオロギーへ対抗する思想形成が挙げられる。現代に於いても、相対的に巨大権力と比較して一個人は大きな力を持つ程には至っていないが、インターネット等による情報伝播速度の発展によって個体の群集化スピードが旧世代とは比較にならない程上昇している。これは、瞬く間に群集・群体が形成され、新たな革命、新たなイデオロギー、そして、新たな藝術表現が立ち上がる可能性があることを意味している。

 本書『Art & Agenda』では、このような政治・社会的なイデオロギーに対抗する新たな藝術表現を紹介するものだ。グローバリズム・資本主義・経済戦争・民族紛争など多元的な諸問題を、藝術表現に依って形成されるイデオロギーによって批評し対比させる。日本人は一般的に、宗教的・民族的・政治的観点から、このような藝術の役割に関心が薄いとされる人種だが、本書を熟読することで世界的または地域的に巻き起こっているイデオロギー形成を知り、それらに対抗する藝術の一つの側面を知る事が出来る筈だ。

 今回のレビューでは、そのいくつかを抜粋して紹介したい。




MARK JENKINS

Art & Agenda (c) 2012 Gestalten, Berlin

 アメリカのインスタレーションアーティスト “マーク・ジェンキンス(MARK JENKINS)”。
自身の作品が美術館に所蔵されることについて、「動物園のライオンようだ」と語るマーク・ジェンキンスは、ストリートでのインスタレーションにこだわりをみせる。街を歩く多くの通行人/鑑賞者は、彼の作品を初見で恐怖し驚くが、次の瞬間には笑いが漏れる。マーク・ジェンキンスの表現方法を一言で語るのであればリアリズムを追求した『ハイパーリアリズム』。本物とみがまう人間像は、実際のストリートでさもありなんという感情を抱かせる。地面に座り込む顔が見えない人形は、自己喪失の隠喩が用いられており、また現代人のアイデンティティ喪失を想起させる。
 ハイパーリアリズムを求めるマーク・ジェンキンスが美術館ではなくストリートに表現媒体を求めたのは理解出来る。美術品の安置所という側面でも捉えることが可能な美術館は、人間の墓同様にその魂を鎮め一段と美しく豪華に永遠の命を与える場所で、日常にカモフラージュした彼の作品の特長であるリアリティとその驚きは、非日常の美術館では影を潜めてしまうだろう。そもそもハイパーリアリズムとは、抽象表現主義の対極的反動して生まれたものであり、回りくどい表現手法ではないストレートでリアリティな描写が求められた表現である。本書『Art Agenda』では、或るイデオロギーへの反動として強烈且つショッキングな表現が目立つが、それはハイパーリアリズム的な表現手法が多く採られているからだろう。




GAO BROTHERS

Art & Agenda (c) 2012 Gestalten, Berlin

 济南出身、現在北京で活動するアーティスト「ギャオ・ブラザーズ(GAO BROTHERS)」。
 2012年の現時点に於いて、地球規模で政治的イデオロギーを象徴的に利用しているだろう中国は、藝術家にとって興味深い国の一つであろう。近日の重慶のニール・ヘイウッド事件で明るみに出た事実は、まるでサスペンス小説さながらの驚くべきスキャンダルを世界に提供し、それらすら未だに氷山の一角である可能性すらある。中国は現在、爆発的な経済発展の裏側で人間的熟成、感性の豊かさが問われていると謂える。こうした状況化に於いて、血の繋がった兄弟ギャオ・ブラザーズは、彫刻、写真、パフォーマンスを通じて中国を風刺するが、 彼らの作品の根底にある中国の捉え方を見れば危険分子として認定されるのも時間の問題であったようだ。

「中国は巨大な建設現場のようだ。それは政治的イデオロギー、経済事情、社会システム、都市デザイン。すべてに於いて未完成の状態である。」

と語る兄弟に中国政府は案の定、危険分子と看做し事実14年間に渡ってギャオ兄弟には渡航禁止令が出された。漸く2001年、禁止令が解かれてからは水を得た魚のようにニューヨークやベルリン、パリ、モスクワなど様々な国のギャラリーで作品展示を行っている。まさに真正面からがっぷり四つで、中国の問題に向かう。その姿勢そのものが、対極的反動の旗手として新たな思想形成を促していると謂えるだろう。




ARAM BARTHOLL

Art & Agenda (c) 2012 Gestalten, Berlin

 ベルリンのアーティスト “アラム・バートル(Aram Bartholl)”。
 昨今、マスメディアと呼ばれるTVや新聞などに代わる情報取得・発信としてインターネットは日常にはなくてはならないものとなった。2010年初頭世界を揺るがした革命の一つ “アラブの春” 然り、ジュリアン・アサンジが創立した匿名性の内部告発サイト ウィキリークス然り、インターネットが政府や会社組織にとって脅威に成り得ることが近年証明されている。(日本では匿名投稿サイト2chが社会的にも大きな影響力を持つことはご存知の通りだろう。)インターネットは、ヴァーチャルとリアリティの議論すら陳腐な程、確実に日常に溶け込み始めている。
 こうした状況を受けて、アラム・バートルはヴァーチャルとリアリティを題材に、インターネット・サービスをオフラインの世界で展開をしている。特にこうした手法を顕著に表しているのが、彼が2006年~2010年まで行った “geo service”というプロジェクト。google Street View の為のデータ取得に見せかけた偽の google car を用意して、街中の人々の反応を試すアナログ・インタラクティブ・インスタレーションや、 google MAP で配置されるピンをオフラインでも再現したりとオンラインとオフラインの境界線を曖昧にして、私達の固定観念を揺さぶり、そして再認識させる。このピンをオフラインで見て即座に google MAP のピンだと認識する人間は大勢居るだろうし、その事実はオンラインとオフライン、ヴァーチャルとリアリティの境界線と同時にその曖昧さを私達に感じさせるものでもある。

関連動画 → gestalten TVにて掲載中[Aram Bartholl — At Top Speed]





JR

Art & Agenda (c) 2012 Gestalten, Berlin

 宗教・人種・ジェンダーによる差別や貧困に苦しむ社会的弱者に焦点を充て、巨大なプラットフォームとも言うべき作品を制作するアーティスト通称 “JR”。2011 TED Prize を授賞し、名実共に世界で認められたアーティストで、2012年にはTEDに登壇しプレゼンテーションを行っている。
 アフリカ・アジア・中東・南米などの世界的に貧困とされる街を転々と旅をし、貧しい人々の肖像画を撮影、その肖像画を引き延ばし、壁や屋根、電車などに貼付けた作品を一度は目にしたことはないだろうか。彼の表現手法には、1980年代末からベネトンの広告などで活躍したオリビエロ・トスカーニのようにメディア掲出の巧さが挙げられる。オリビエロ・トスカーニが、ベネトンの広告で世界の諸問題を広く世間に伝播した事と同様に、JRも伝播を様々なパブリック・メディア(ここでは電車や建物)を利用して行っている。このような先進国が隅に追いやったNIMBYとも謂える諸問題を、穿り返し表舞台に引きずり上げる行為は、アーティストとしてオーセンティック且つ模範的であるとも謂える。また、彼の作品は只制作するのではなく、人々を巻き込む参加型のプラットフォームである。被写体としてモデルだけではなく貼付・ラッピングを参加者が行う姿は、多くの貧しい人々が、”JR”の藝術的思想に傾倒したからに他ならない。

関連動画→アフリカ諸国で差別や犯罪に苦しむ女性をテーマとする「Women are Heroes



 本書『Art & Agenda』は、上記に挙げた藝術家以外にも多くの作家が取り上げられており、現在の世界情勢と政治的/社会的イデオロギー、それらに相反する作家について知ることが可能だ。奇しくも昨年の3.11以降、日本国内でも政治や経済システム、エネルギーなどの諸問題に関心が集まっているが、藝術家並びにあらゆる表現者にとって何を行うべきかその役割の一端が紹介されている良書と謂えるだろう。是非手にとって欲しい、お薦めの一冊だ。

 尚、現在 代々木VILLAGE内のブックショップ「POST」にて、本書の発行元であるゲシュタルテンの特集が組まれている。本記事で紹介したアラム・バートル(Aram Bartholl)やマーク・ジェンキンス(MARK JENKINS)のブックが入手可能なので、チェックして見てはいかがだろうか?



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Art & Agenda -POLITICAL ART AND ACTIVISM-

編者:R. Klanten, Matthias Hubner, Alain Bieber, Pedro Alonzo, Gregor Jansen
頁数:287 ページ
判型:24 × 30 cm
仕様:オールカラー版 / ハードカバー
定価:EUR 49.90 / USD 78.00 / UK 45.00
発売:2011年9月 (欧州)
発売:2011年4月 (国内)
ISBN:978-3899553420
出版:Gestalten
販売:Amazon (http://www.amazon.co.jp/dp/389955342X)

国内お問い合わせ先:Gestalten Japan (0422-30-9326)

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