[column: 00] Our Way to Creator – クリエイターとして独立したいあなたへ



 
 

序章
いったい誰の為に、何の為に、働くのか

 連載コラム「Our Way to Creator – クリエーターとして独立したいあなたへ」(*1) を立ち上げるのは、私たちが13年間、デザイン・アートなどを中心にしたメディア「 HITSPAPER 」を運営してきたこと、そして、その母体であるクリエイティブ・スタジオ「HITSFAMILY 」を14年間経営し、設立当時の主なドメインだったグラフィック・ウェブデザインから、企業やブランドの CI や VI、コピーライティング、フォトディレクション、編集、イベントディレクション、プロダクト開発、アパレル商品開発、そして、バルーン・アーティスト「Daisy Balloon 」のマネジメントに至るまで多岐に渡って活動し、その学びから伝えるべきことが明確になってきたことが大きい。
 HITSPAPER を立ち上げた時の私は、ビジネスだけでなく、デザインやアートもろくに理解していない27歳の若者だった。当時は、まだ海外から限定的にしか届かなったデザイン・アート情報が、インターネットによって世界中が繋がり、各都市のクリエイティブ・ポータルサイトから発信され始めた頃だ。これまではタイムラグがあった情報が、例え地球の裏側の出来事だったとしてもすぐ目にすることができるようになったのだ。
今でこそ、スマートフォンの普及やSNSの発達で簡単に個人が発信できる時代になったが、その当時はまさに情報発信の原点は限られたウェブサイトだけだった。海外で言えば「QBN」、国内であれば「CBCNET」など、文字通り、かじり付くようにモニターを眺め、興奮して記事を読んだことを覚えている。彼らの活動がなければ、同じようにメディアをやってみようとは思わなかっただろう。
 若さという勢いに任せて始めたメディア・プロジェクトだったが、媒体を通じた記事だけでなく、国内外のデザイナーやアーティストを招聘したデザイン・カンファレンス「HIGH5」や、鼎談によるトークセッションイベント「NIT」、そして、タブロイド発刊など、様々な挑戦をしてきたつもりだ。ある種のハブとして、人が混じり合い、まだ名もない、現在では日本を牽引するような活躍を見せるクリエイターも紹介してきた。このようにして、立ち上げから、7〜8年くらいまでは後ろを振り返らず歩んできた訳だが、数年前から、はたと足を止めて考えることが多くなった。
「いったい誰の為に、何の為に、HITSPAPERを続けるのか」
 いつしかこの問いかけに上手く答えることができなくなって、正直、何度かこの媒体を休止することも考えた。なぜ自分の内でかつてはあった志が消えつつあるのか、いくつか原因はあるが、おそらく、私たち運営者に非常に近い人たちが以前は読者だったが、彼らも年齢を重ねて、求める情報が少しずつ変わっていったことが大きいだろう。定期的に行っていたイベントも、スタジオのクライアントワークが忙しくなってくると休止してしまい、そのせいもあってか、読者までの距離が非常に遠い存在になってしまったように感じた。すぐ傍で声が響きあっていた筈なのに、それが薄れていったような感覚だった。
また、スマートフォンやSNSの発達によって、個人で発信できる時代になったことも大きいだろう。以前はハブのような形で、人を繋げる媒体として機能していたものが、誰もが独自のコミュニティを自分たちで形成しやすくなったので、ある種の役目が終わったように感じていた。
 こうした影響を受けて、縮小化する形で記事の本数を減らしてきたし (本当に伝えたいもの以外は記事化しない)、私自身もある種、運営する意義、目標を見失っていたと言えるだろう。幸いなことに、HITSPAPER では、広告に頼るような収益モデルをとっていなくて (媒体はできる限りシンプルに、伝えいたい情報までアクセスしやすい導線を考えているので広告はなるべく入れたくなかった)、スタジオ HITSFAMILY の収益の一部を活動費にしていたので、いつでも辞めることはできた。何か不幸なきっかけや、辞めざるを得ない事柄があれば、おそらく辞めていたと思う。しかし、数年間抱えていたこうしたネガティブな気持ちが昨年から、180度転換し、ポジティブな方向へ変わりつつある。人生とは何とも不思議なものだ。いくつか思い当たる節があるので、その契機を振り返ってみたい。

 
 

これからの世界をサバイブするために学ぶ
HITSPAPER オンラインサロンプロジェクトに向けて

 私をエンパワーメントとした契機は大きく3つある。
 一つ目は、アクセス解析がここ数年で格段に向上したこと。年齢層、性別、地域など、どのような人が読んでいるのか、以前より具体的にわかるようになってきた。これがいま企画しているプロジェクトの大きな助力になりつつある。興味深いのは普通のメディアであれば、運営者の年齢と共に読者層も上がっていくが、HITSPAPERで言えば、18~30歳くらいの方が約6割を占め、若い世代の読者が増えてきている。また、男女比で言えば 49 : 51 でほとんど同じながら僅かに女性の方が多くなった。特に意識していた訳ではないが、とてもニュートラルなメディアになってきたようだ。
 二つ目は、非常に個人的な理由だが、昨年、娘が生まれて故郷盛岡で子育てをしながら、東京へ行き来して仕事をするという二拠点生活になったことが大きい。盛岡に居る時間が長くなると、地方の現状が以前よりも目に見えるようになる。盛岡の若い人たちに触れるたびに、地方ならではの選択肢のなさ、もっと言えば、10代の頃に本物に触れたり、クリエイティブ業界の人たちに触れる機会が圧倒的に少ないことが気にかかってくる。どうにかして、そのような機会や契機をもっと作り出せないだろうか、と強く感じるようになっていった。
 三つ目は、私も40代となり、求められるものが少しずつ変わってきたということである。もちろん、今でも自分の手を動かして生み出す仕事もあるが、若い時よりも圧倒的にディレクションによる仕事が増えて、「若い人に教える」という役割が増えてきた。これまでの HITSPAPER では、私たちも20代、30代と若く、学びを吸収する立場だったから、興味のある情報や人を紹介してきたが、最近では私たちからも経験を通じて何かを「教える」「伝える」ということができる時期に差し掛かってきた、と考えるようになった。
 長く HITSPAPER を愛読されてきた読者の方には理解していただけると思うけれども、私たちは、普遍性、本質的なもの、時のふるいがかけられても次代に残っていくものを紹介したいという想いが強く、”how to” のようなノウハウを伝えるコンテンツを避けてきた。ウェブ上で展開される簡単な情報では、誰でもコピーできてしまうという理由もあるが、「表現者としての人格を形成する」、「思想や哲学を学ぶ」、その基盤の上に表現というものを載せていくことが望ましい、と立ち上げた時からずっと考えてきたからだ。
 しかし、上記に挙げた理由から、HITSPAPER として、これからの世界を生き抜く為の心得や技術を若い世代に伝えたい、という想いが強くなってきた。国内では人口減少が続き、それぞれの業界もレッドオーシャンだらけになっていて、東京に夢を求めてやってきたものの、壁を突き抜けず、故郷に戻る若い人も多い。こうした様々な状況に鑑みて、動き出すタイミングがきたように感じている。
 という訳で、この連載コラム (今回の記事を序章とし全10回を予定) を皮切りに、ゆくゆくは学びが得られる第三の学校のような HITSPAPER ならではの 「オンラインサロン・プロジェクト」へ展開したいと考えている。まだ不確定なことも多く具体的には伝えられないが、東京などの都心だけでなく、地方にいても学びが得られるようなコンテンツを、動画や記事を通じて届けるイメージだ。もちろん、私たち HITSPAPER、HITSFAMILY だけでなく、これまでの14年間で築いてきた多様なジャンルの関係性の中から、ふさわしいゲストを迎えて、思想や哲学だけでなく、実践として役立つような学びを発信していきたい。
 さて、進むべき方向をお伝えした訳だが、このプロジェクトでは、10代から20代のデザインやアートを食べる術として、ゆくゆく独立を考えている人 (あるいは既に独立している人) にふさわしいコンテンツとして考えている。スタジオを自分で運営したい、フリーランスで仕事をしたい、といった世界を自分の力でサバイブする人たちに向けての指南書やアドバイスが中心となる予定だ。
もちろん、これまでの HITSPAPER のように表現をする上でそれが人生の意味となるような哲学や思想も伝えていけたらと思っている。つまり、食べるだけに働くクリエイターではなく、そこに人生の楽しみを見つけられるような人が少しでも増えるようなプロジェクトを目指したい。私たちのスタジオの内部も含めて、なるべくざっくばらんに伝えていくつもりだ。
 最後に、このコラムの連載に当たっては、いくつかの書籍を参考文献とする予定である。その回によってまた適宜紹介する予定だが、進行のベースとして David Airey 著の「デザイナーとして起業した (い) 君へ。成功する為のアドバイス」を参照する。こちらを一読していると、より理解が深まると思うので、興味がある方はぜひ手にとってほしい。

 

 

「デザイナーとして起業した (い) 君へ。成功する為のアドバイス」
出版社 | ビー・エヌ・エヌ新社 (2013/11/13)
発売日 | 2013/11/13
https://amzn.to/38caGDf














[column] Our Way to Creator – クリエイターとして独立したいあなたへ
序章 「クリエイターとして独立したいあなたへ
1章 「クリエイターとして独立までに学ぶべきこと、準備しておきたいこと
2章 「クリエイターのオリジナリティについて



 


text by: arata sasaki (佐々木新)

岩手県盛岡市出身。一児の父。東京と岩手盛岡市の二拠点暮らし。 ブランディング・スタジオ「HITSFAMILY」共同代表。ブランド・アイデンティティ・ディレクター、コピーライターとして働く傍ら、最新のアート/デザインを紹介するウェブマガジン「HITSPAPER」や”子どもを通じて世界を捉え直す”「mewl」の編集長を務めている。
2013年から小説を書き始めて、2016年に小説「わたしとあなたの物語」、2017年に小説「わたしたちと森の物語」を刊行。それらに併せて、言葉と視覚表現の関係性をテーマにした展示を行っている。 (HP / Instagram)