[column: 01] Our Way to Creator – クリエイターとして独立するまでに学ぶべきこと

 

第1章
クリエイターとして
独立までに学ぶべきこと、準備しておきたいこと

 
 前回掲載した序章で、何故、この連載コラム「Our Way to Creator – クリエーターとして独立したいあなたへ」を始めたのか書いた。繰り返しになるが、本コラムで伝えたいのは、これまで HITSPAPER で重視してきた哲学や思想を基底にしながらも、レッドオーシャン化しつつあるクリエイティブ業界で生き抜く為の実践・指南書として、いま高校生で進路を考えている、大学生やすでに企業に勤めていて、ゆくゆくフリーランサーとして働くことを考えている、あるいは独立して間もないスタジオをエンパワーメントしていきたいと考えている。尚、前回「デザイナーとして起業した(い)君へ。成功するためのアドバイス」という書籍を薦めたが、海外の著者ということもあり、より国内にローカライズした、且つ、HITSPAPER らしく、独立して仕事をすることでどのようなことを人生にもたらすか、ということを付与して展開していきたい。
 第1章では、「クリエイターとして、独立までに学ぶべきこと、準備しておくこと」について触れていくが、これらは概要としてざっくりまとめたものであり、各章の扉のようなものだと認識してほしい。最後まで読んでもらう中で、リアルに独立へのイメージを抱いてもらえるような構成で進行していくつもりだ。
 さて、実践として役立つようにというテーマがある本コラムだが、どうしても最初に伝えたいのは、仕事において「自分を知る」ことを大切にして欲しいということだ。これは何も職業的な特性としての「私」を知るということにとどまらない。
 私たちはフリーランスから株式会社となり、「HITSFAMILY」というスタジオとして14年経営をしてきたが、いまだに「私」という生物をすべて把握しているとは思っていない。個人的なことになるが、昨年、私は娘が産まれて、父親になったこともあるかもしれないが、人とは多面体であることをまざまざと感じている。そして、人間の新しい側面を常に知っていくことは、人生の醍醐味であり、これこそ創造的なことだと思うようになった。もちろん、これは新しい仕事によってももたらされることでもある。私たちは仕事を通じて(作品を突き詰めていくことで)、自分というものに深くコミットメントしていく生き物のかもしれない。
 どうして「自分を知る」ことが大切なのか。それは人生において何をやり遂げるのか発見し、有限な時間をどのように捧げていくか、という何世紀にも渡って人類が考え続けてきたことに自分なりの答えを出していくことに他ならない。
 もちろん、「自分を知る」ということは、こうした自分なりの人生を探すだけでなく、良い仕事をする上でも、よりベターな答えを導き出すものである。例えば、自分が持っている武器が何であるのか、潜在的な能力も含めて知ることは大切だし、ひとりで戦っていくのが良いのか、チームで生き抜くのか、という問題も自分の特性を知っているのならば、解答も導きやすくなるだろう。自分の足りないものを補う手段があれば、例えあなたに欠けているものが大きくても有利に進めるチャンスは多いにある。少しずつではあるが、シェアオフィスの充実など、以前より新しいスタジオやフリーランスが働きやすい環境が整ってきている。
 本稿は「クリエイターとして、独立までに学ぶべきこと、準備しておくこと」をテーマにしているが、最初に独立することのメリットやデメリットも伝えておきたい。多くの独立しているスタジオやフリーランサーは何かを犠牲に、あるいはリスクをおかして、この道を歩んでいる。強い光が当たるからこそ生まれる影もある。良いところばかりに光を当てて、影の部分を隠すことはしたくない。




Part 1
独立するメリットとデメリット

メリット

 私がスタジオを立ち上げて感じる最大のメリットは、好きな仕事を自分で選べるということだ (ストレスになるような仕事を断ることができると言える)。例えば、前述したが昨年、娘が生まれたことで、家族の時間をより多くとりたいと考えるようになった。そこで、私は家族のあり方を考える媒体を企画し、友人を介して知った企業に提案書を持ち込んで、スポンサー費を出してもらう形でウェブマガジンを中心としたプロジェクト「mewl 」を立ち上げることにした。子育てから得られるものは貴重であると感じたから、子どもに触れる時間を多く生み出すような形態にして、学びながら仕事にしていくというスタイルにしたのだ。また、仕事の形態も、共同代表である河田に相談し、数年間は両親がいる故郷盛岡で子育てをしながら、東京でも仕事をするという二拠点での働き方に切り替えた。もしも独立せず、企業に勤めていたら、難しい形態なのではないだろうか。

 

デメリット

 当然のことながら、すべて自己責任であるからリスクが大きい。上司もいないから、たとえ間違った選択をしていても、誰かに諭されたり、教えられることもない。すべて自分たちの責任で生きていかなければいけない。
 ひとりでフリーランサーとして生きるのではなく、チームとしてスタジオにスタッフがいる場合は、まとまった運転資金が必要なので、銀行からお金を借りるというリスクをとることもある。もちろん、売り上げだけで回すのが理想的だが、基本的に私たちの仕事は薄利多売ではなく、厚利少売 (たくさんの数のクライアントを持つ訳でなく、一つのクライアントが持つ売り上げが高い) なので、クライアントが一つでも減ると、売り上げがごっそりなくなってしまう。また、大型契約の場合、クライアントからの支払いが遅れたりすることで、資金繰りが厳しい月も出てくる。スタッフの給与は私たちよりも優先して支払いをしなければいけないので、ずいぶん悩むこともあった。(銀行との付き合い方や、どのようにリスク分散すべきなのかなど、お金にまつわるコラムも別の章で書く予定だ)

 総じて、高いリスクを負いながら、自由ややりがいを得るというのが、多くの独立したクリエイターやスタジオの共通するところなのではないだろうか。




Part 2
独立までに学ぶべきこと、準備しておくこと

1 独自のポジション(オリジナリティ)を意識する

 現在の業界を俯瞰すると、私が独立した14年前よりも、レッドオーシャン化していると言えるかもしれない。多様な表現がインターネット上で溢れかえっているし、それらのスタイルは簡単にコピー&ペーストすることができる。新しいスタイルが現れても、消費がかなりの早いペースで為されてしまう。SNSのタイムラインでは、プロフェッショナルではない人々の方が大量に表現をしている時代とさえ言えそうだ。
 とても残酷なことだが、人とは異なる独自の表現を目指さなければ、代替可能な存在となり、いずれ価格競争に巻き込まれて疲弊していってしまうだろう。もちろん、人それぞれ背景があり、環境に依ることにもなるので、ここで「どうやってユニークな存在になるか」を具体的に記すことはできないが、最低限、過去から現在の文脈や作品を研究し、時代の流れから未来を見通しながら、どのポジションが空いているかを俯瞰してみることは大切だろう。点で見てしまいがちの現在の作品を過去から紐といて、どのようなポジションに置くべきかを考える。
 良い例はないかと考えて、すぐに思いついたのが、誰もが簡単にデジタルで写真表現ができるようになった現代において、フィルム写真を中心に撮影する写真家「奥山由之」さんだ。大御所世代でフィルム撮影をする人は多いが、彼が世に出る頃は、まだミレニアム世代、デジタルネイティブ世代でフィルムを中心に撮影する人は少なかった (今でこそ若い世代でフィルム撮影をする人も多いが、もうそのポジションは埋まってしまった)。ちなみに、奥山さんには、初個展が行われた Raum で初めて会ったのだが、今も変わらず人柄が素晴らしい。
 既存の分野でポジションをとることは難しいが、インターネットが普及し始めた2000年代に現れたデジタルアーティストなど、新しい技術の到来によって注目され、イスタブリッシュされる場合もある。ただ、その時代の、その場にいなければいけないので、運などの要素も大きいだろう。
 また、分野が異なる人同志がユニットとしてアート活動をするということも新しいポジションを生み出す可能性を秘めている。運良く、私たちのスタジオはそのようなアーティストが近くにいるので、この章では彼らのことも紹介していきたい。

2 ライフワークの習慣を身につける

 独立して活躍している友人・知人を見ると、受注仕事だけ、クライアントワークだけやっているような人やスタジオはない、とはっきり断言ができる。ライフワークとして個人で実験的な作品に挑戦し、未来への投資を行っている。もちろん、これで投資を賄うような売り上げがたつことはほとんどない。
 手前味噌で恐縮だが、身近で例を挙げるとすれば、私たちのスタジオでマネジメントをしているバルーンアーティスト「Daisy Balloon 」。彼らは定期的に、クライアントワークでは難しい実験的な作品をライフワークとして行っている。常に自分たちの未来に投資し続けることによって、停滞しない、新しい表現がアップデートされていくのだろうと思う。
 いざ独立して軌道にのって売り上げが安定したり、企業人として勤めていると、クライアントワークで手一杯になってしまうこともあるかもしれない。キャッシュは入ってくるかもしれないが、そういう時こそ未来の自分へ投資したい。そのような癖、習慣を仕事を始める前から意識して身につけて欲しい。

3 自分にふさわしいコミュニティを作る

 あなたが独立したばかりで、すでに知名度がある場合を除き、多くの場合は属しているコミュニティから仕事の依頼がくる可能性が高い。インターネットを介して、会ったこともない人から仕事が来るのは稀で、多くの場合はメディアを通じて、あなたの仕事の評判を見聞きしてからになる。
 コミュニティの持ち方は人それぞれで一概に言えないが、私たちの場合、13年前このHITSPAPERというマガジンが立ち上げたことが契機となった。インタビューをしたり、情報発信のお手伝いや、自分たちで主催するイベントなどを通じて多くの友人、知人を得た。あれから十数年経過した訳だが、その当時の繋がりは、仕事としても、プライベートとしても非常に貴重な財産になっている。例えば、仕事に直結するところでは、主宰するイベントに来ていただいたお客さんが数年後ディレクターとなり一緒に仕事をしたいと誘ってくれたり、友人・知人の繋がりで仕事を紹介されたり、コラボレーションという形で一緒に作品を作ることもある。プライベートでも、悩みを聞いてもらったり、人生の門出を祝ったり多くの喜びをもたらしてくれる本当に貴重な仲間であり、意味のあるワークライフを過ごすなら不可欠だ。
 もちろん、メディアという形に縛られる必要はない。今やプロジェクトを自分で立ち上げることができるし、既存のシェアオフィスに入ることで、繋がりが生まれやすい環境を作ることができる。あるいは、仲の良い人たちで、シェアオフィスを始めても良いかもしれない。
 また、コミュニティはいわゆるその人の周りの生態系のようなものだから、わざわざ言葉にしなくとも、ある種のコミュニティになっている人も多い。私の友人は定期的に数人が参加する小さな飲み会を開き、人を繋いでいくような人が多く、そこからも人脈が広がっている。そこで話されるのは、ネットではまだ上がらない現場の実態だったりするので、現状を知り、未来を予想するのに役立つことも多い。
 独立するクリエイターの中でも、孤立して姿が見えなくなった人も多い。チームに、コミュニティを作ったり、属していくことでそのリスクもかなり軽減されると思う。どのようなコミュニティの形があるのか、この章では掘り下げてみたい。

4 キャッシュフローを学ぶ

 独立して最も学んだことはお金にまつわることだと言っても良いくらい、キャッシュフローを知ることは大切なことだ。どのようにしてお金が作られ、流れていくのか。クリエイターはただ作っていれば良い、というのは昔の話。お金は自分たちの最終的なアウトプットに大きな影響を及ぼすから学ぶべきだと思う。大きなプロジェクトを動かすには、自分だけではなくどうしてもお金が流れていく必要がある。どういう人が必要で、どのくらいかかるのか、最低限のことは知っておきたい。また、注意すべきことはプロジェクトの流れの中で、不要な中抜きをする人が現れることもあるということだ。最初は気づかないかもしれないが、どのようにそれを回避するのか経験しながら学んでいくしかない。
 相場の金額を知ることもとても大切なことだ。同じロゴ制作にしても、ある企業は数万で、ある企業は桁が一つ異なることもあった。どのような見積もりを出すのか、どのようにしたら通りやすいのか。この章では例を挙げて説明していく予定だ。また、あなたが一日いくらで動くのか、という基本となる設定も意識しておいた方が良いだろう。

5 発信する力をつける

 「人が訪れないような谷底で咲く、綺麗な花になってはいけない」
 独立したての頃、30歳近く上の、コンサルティング会社を経営している先輩に助言された言葉で、いまでも自分が内に閉じこもりそうになった時にふと頭を掠める。もちろん、こうした状況で咲く花は可憐だし、存在のあり方として美しいと思う。と同時に、残酷なことに、誰も見出してくれずに人生を終えてしまうことだってある。見出された花はそれらのうちのごく僅かだ。かと言って無闇に目立てば良い訳ではない。自分を知り、届けるべき人にはしっかり伝える努力をしなければいけない。
 具体的な話をすれば、ポートフォリオをどのようにまとめて公開するのか、どのようにプレゼンテーションするのか、人と話している時の振る舞い、またはSNSでどのような表現をするのか。最近では、どのような仕事をするのか、ということと同時に、どのような人間性を持つ人と仕事をともにするのか、という人として背景がより大切にされるようになってきた。打算的でない、他者を思いやる人ほどプレゼンテーションが苦手が印象があるからこそ、あなたの持っている本来の良さを知ってもらうために、どのような場所で、どのように魅せていくのか、意識しながら発信する力をつけていきたい。この章ではそのような方法論を具体的に探求していく予定だ。

6 ブランディングをする

 いざ独立をする時、必要になってくるのが「名前」だ。アーティストやフリーランスの場合は実名でも良いかもしれないが、スタジオやブランド、ショップなどの場合はネーミングセンスが大切である。うまくいけば、その名前をがそのままあなたのストーリーを物語ってくれるかもしれない。
 ちなみに私たちの今のスタジオHITSFAMILYはLLP (有限責任事業組合) であり、他に株式会社が二つある。言わばグループ会社なのだが、最初に作られた「KOTENHITS (コテンヒッツ)」からその名が展開されてきている。KOTENHITS は、会社のパートナーである河田が15年ほど前に開催した「個展」がきっかけで、ラッパーの「shing02 」さんが付けてくれた。「個展=KOTEN」を「ヒットさせる=HITS」と、野球の「ポテンヒット」が掛け合わされたもので、私たちがどのような仕事をしていくのか、ユーモアを交えてわかりやすく伝えてくれている。あなたの周囲に信頼できる人がいれば、名付け親のように付けてもらうこともありかもしれない。
 また、自分のストーリーに興味を持ってもらうことが重要だから、個人名が多い分野に属するなら、敢えて実名を隠して、ニックネームやプロジェクト名にするなど逆の発想でネーミングしても良いかもしれない。例えば、すぐに思いついたのが、写真家の「Gottingham 」。彼の写真が持つ、超然とした視点を想起させるネーミングで、どこか捉えきれない作風に寄与している。
 さて、名前が決まれれば、名刺、封筒、請求書フォーマットなどの実用的なアイテム、そしてホームページ、あるいはSNSアカウントを作っていくことになる。特に目に触れることが多い、名刺やホームページ、SNSアカウントは大切なタッチポイントだから、あなた独自のポジションや背景がつたわりすい表現をするべきだろう。デザインだけでなく、文体を含めた言葉の選択、メッセージ性など、自分らしさに適してもの選ばないと曲解して伝わってしまう可能性もあり、長い目でみたら損をする場合もある。無理をして変なキャラを作るのではなく、自分を客観視し、特性を引き出すような自然なブランディングを目指したい。

7 プロジェクトのマネジメント方法を学ぶ

 実践が必要なセクションで、独立後に学ぶことが多いかもしれないが、自分でプロジェクトを立ち上げて、周りを巻き込みながら活動することで肌感覚として知り、理論化していくことができると思う。マネジメントを学ぶということは、組織の仕組みや人間関係を知るということ。どのような動機で、何を感じて人が動くのか、机上の空論ではない体験として学ぶ必要がある。
 クライアントの選び方、クライアントとの付き合い方、契約条件、プロジェクトを受ける前や中途での危険信号をどのように見抜くか、そしてその回避方法、スタッフとの関係性など、プロジェクトが成功する為のマネジメント方法を過去の経験を交えて伝えていきたい。





[column] Our Way to Creator – クリエイターとして独立したいあなたへ
序章 「クリエイターとして独立したいあなたへ
1章 「クリエイターとして独立までに学ぶべきこと、準備しておきたいこと
2章 「クリエイターのオリジナリティについて
3章 「クリエイターのコミュニティについて

 


text by: arata sasaki (佐々木新)

岩手県盛岡市出身。一児の父。東京と岩手盛岡市の二拠点暮らし。 ブランディング・スタジオ「HITSFAMILY」共同代表。ブランド・アイデンティティ・ディレクター、コピーライターとして働く傍ら、最新のアート/デザインを紹介するウェブマガジン「HITSPAPER」や”子どもを通じて世界を捉え直す”「mewl」の編集長を務めている。
2013年から小説を書き始めて、2016年に小説「わたしとあなたの物語」、2017年に小説「わたしたちと森の物語」を刊行。それらに併せて、言葉と視覚表現の関係性をテーマにした展示を行っている。 (HP / Instagram)