Book Review – 『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』

 
 

「モノよりビジョン」を買う時代の正しいブランディング

 『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』は、HI(NY) 共同代表である、小山田育と渡邊デルーカ瞳によって書かれたデザイン経営戦略本。ブランディング先進国アメリカ、ニューヨークを拠点に世界中のビジネスを手掛けてきたアートディレクターだからこそ伝えられる、ブランディングに大切なことが実に真摯に語られている。
 本書を手にしたのは、私たち HITSPAPER の母体でもある、クリエイティブスタジオ HITSFAMILY のビジネスアーキテクチャをあらためてまとめようと話題に出たのが契機だった。というのも私たちスタジオはかれこれ14年前、東京でデザインスタジオとして産声を上げ、当初の主なドメインだったグラフィック・ウェブデザインから、CIやVI、コピーライティング、編集、イベントディレクション、プロダクト開発、アパレル商品開発など多岐に拡張するような形でトータル・ブランディングへと移行してきた背景がある。また、この10年近くにおいて、デザインという概念が、アップルをはじめとするデザイン的経営戦略の成功など、世界的にデザインそのものの多様な解釈が拡大してきたことも大きい。忙しさにかまけて、ウェブサイトのポートフォリオ更新もままならない現状を、今一度整理してスタジオ設立20周年へと歩んでいきたい、とそう私たちは考えたのである。
 さて、本書を読了してまず感じたことは、実にロジカルにブランディングの方法論と日本におけるブランディングへの意識の問題がまとめられているということだ。特に、「世界と日本のデザインという認識の違い」、「ブランディングをした場合としなかった場合の影響について」、「チーム編成」、「ブランドシステム構築のプロセス」の項目は、どれもがとても丁寧、且つ、ビジネス書にありがちな読みにくいものではなく、語りかけるような易しい文体 (翻訳の文体でないことも大きい) で書かれている。そして、最も大切な時代のニーズとして、「モノよりビジョンを買うこと」を掲げていることにも共感を抱いた。

 
 

経営戦略チームにデザインの責任者=アートディレクターをいれる

 私たちがスタジオを14年間何とか経営してきた中で、共同経営者や周りの同業者の友人・知人とよく「良質なクライアントとは?」という話を何度もしてきた。もちろん、置かれた状況によって様々な見方ができるが、長く一緒に仕事したいと思うようなクライアントとして、経営陣にデザイン的素養、あるいは理解がある人物がいるかどうかということを挙がることが多い。せっかく長い時間をかけて制作したものが、私たちの元を離れていった後、酷い使われ方をされたり、一時的のものとして消費されることで、いとも簡単にブランドの魅力が損なわれていくのを何度も見てきた。
 ブランドというものが何であるか、ブランディングとはどのような影響を及ぼすのか、ある程度のデザイン的素養を持たないと、もはや経営戦略としても成立しない時代だからこそ、ここ最近は自分たちのビジネスアーキテクチャの在り方や、クライアントへの打ち出し方、プロジェクトのプロセス自体を考えることが多くなり、何度もクライアントに理解してもらおうとしてきた。
 しかし、これは結構難しいことで、何度かトライしてみたものの上手く伝わらない。私たち自身が経営戦略を学んでいないという歩みよりが足りなかったかもしれないが、いずれにせよ、クライアントに上手く説明することができずに歯痒い想いすることになった。だからこそ、本書を手にした時は、その明確なメッセージに胸がすくような想いだった。
「世界では経営戦略チームにデザインの責任者、アートディレクターをいれることは常識です。デザインは問題解決の手段と考えられており、戦略策定にはデザインによるアウトプットまで含まれると考えるからです。」(本書より抜粋)
 せっかく制作したブランディングが空回りしたり、持続的に展開していかない原因は上記がなされていないことに起因することが結構多いように思う。スタジオ経営や、この HITSPAPER を続けて周囲にいる多くの優秀なデザイナーや表現者を見てきたが、やはり一流と呼ばれる作り手はより経営戦略チームに近いところで共に働いている。
 デザインやブランディングというものを曲がり形にも14年間続けてきた私たちスタジオは、本書を手にし、非常に頭がクリアになったし、進むべき方向が間違っていなかったことも確信できた。デザインというものが広義的な意味を持ち、”モノやサービスからビジョンを買う”時代に移行しているタイミングだからこそ、ぜひ手にして欲しい一冊。デザインに携わるものだけでなく、あらゆるビジネスリーダーにもお薦めしたい。

 

text by arata sasaki (HITSFAMILY co-founder)
HP: www.hitsfamily.com
Instagram: @arata_hitsfamily

 
 

『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと」
単行本(ソフトカバー)| 222ページ
出版社| クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
言語 | 日本語
発売日| 2019/4/26
梱包サイズ | 20.8 x 14.8 x 2.2 cm

https://amzn.to/2N7K5z3

 

小山田育・渡邊デルーカ瞳
HI(NY) 共同代表。クリエイティブ・ディレクター、アートディレクター、グラフィックデザイナー。NYの美術大学 School of Visual Arts グラフィックデザイン科を卒業。MTV、ブランディング・エージェンシーのThe Seventh Art を経て2008年、HI(NY)を設立。近年の主な仕事に、米国コカコーラの新商品ブランディング&パッケージデザイン、国連の展覧会デザインなど。アトランタのHigh Museumやパリのコレットにて展覧会に参加。One Show、 Graphis、 GD USAなど多数受賞。AIGA会員、NYアートディレクターズクラブ会員。
http://hinydesign.com/