揺れ続ける「わたし」という自我を描いた、佐々木新による小説『わたしとあなたの物語』
HITSPAPERを主宰する、佐々木新の処女作となる小説『わたしとあなたの物語』が刊行された。
書籍は、対称的な存在として描かれている『月』と『湖』いうふたつの物語と、それらふたつを繋ぐ『わたしとあなたの物語』から構成されている。『月』の主人公は、平凡な大学生の男の子と、彼の顔が月に見えるという少し変わった女の子。あるきっかけで二人暮しを始めた彼らが、日常に起こる出来事を通じて、様々な発見をして成長していく。そして、『湖』では、子どもたちしかいない湖畔でひっそりと暮らす老年の女性が主人公。どちらの物語も“揺れ続ける「わたし」という自我が、周囲の「あなた」と、どのような関わりによって形成されていくのか”というテーマで描かれている。
あなたの顔は月に見えるの、いろんな月の形に変化して、ときにはとても穏やかな満月に、ときには荒々しい力が漲っている三日月に、 ときには眩い陽光の中にあるうっすらとした幽霊のような儚く薄い月に見えるの、と彼女は半ば眠りに落ちながら述べた。
(『月』より抜粋)
私は人の顔をよく盗み見るのですが、真正面から覗き込む時は目がかちあってしまう恐れがあるので少し大胆にならなければいけません。そして、そのタイミングを間違えて、ふいに相手の瞳とぶつかった時、火を吹いたように私の顔は赤面してしまいます。なぜ、瞳というものはこのように人を動揺させてしまうのでしょうか。きっと、瞳を通じて相手の心を覗き込んだような心持ちになりますし、同時に私の心もまた他者へ曝け出してしまうような気がするせいでしょう。瞳はその人間がどのように世界を見ているのか、そうした窓のようなものなのかもしれません。
(『湖』より抜粋 )
書籍 『わたしとあなたの物語』
著者 | 佐々木新
発行所 | 有限会社 HITSFAMILY 東京都世田谷区三軒茶屋 1-16-22 #305 〒154-0024
電話 | 03-3419-6916
デザイン | Takashi Kawada (HITSFAMILY)
イラスト | Sakurako Oidaira (http://sakurakooidaira.tumblr.com/)
著者
佐々木新 Arata Sasaki / 作家
岩手県盛岡市生まれ。デザインスタジオ「HITSFAMILY」にてクリエイティブディレクションを手がける傍ら、2013 年から散文を書き始める。 また、2015 年から心理学を学び、心を問題とした視覚表現と言語表現 の間で、新たな表現を研究し始める。処女作は「月」と「湖」を収めた「わたしとあなたの物語」。