“INFOBAR + YOU”連動企画
Text by Arina Tsukada
Photo by Sawako Fujii
ある瞬間の空気や温度、匂いや佇まいを繊細に写し出す写真家、新津保建秀。柔らかな光に包まれた彼の写真には、すっと私たちの心にとけ込み、記憶の一部となるような透明感のある景色が広がっている。「INFOBAR A01」のカメラ機能を使って撮影された写真にも、その佇まいは変わらず写し出されていた。彼が関わってきたさまざまな人々の出会いから培われた、 写真家の視線の先にある豊かな世界観を探った。
- このUIにある写真はどこで撮影されたものですか?
Kenshu Shintsubo: 代官山のヒルサイドテラスです。2008年頃からヒルサイドテラスとその周辺を撮影するプロジェクトを進めていて、何度も同じ場所を撮っているので、「この時間帯はこの光」というのが殆どわかっているんです。「INFOBAR A01」のカメラ機能を使って、数分程で撮れました。タッチパネルの反応が早いのと、シャッター音が新鮮でしたね。UIには4枚ほどの写真をレイアウトして、写真を並べたときの存在感を演出しました。場所を決めてあったので、撮り終わるまではとても早かったです。
- 普段から、同じ場所を何度も撮影されるのですか?
Kenshu Shintsubo: スケッチをするように、何度も同じ場所を探っていって、すっと「はまった」と感じる瞬間にシャッターを切ります。ある場所の光景や空気の記憶が戻ってきたとき、少しだけその記憶が更新されるような瞬間が好きなんです。写真を始める前は、ずっと8mmフィルムで風景を撮影していました。その場所の記憶をとどめておくためにフィールドレコーディングも同時にしていましたね。一本のフィルムを数秒ずつ一ヶ月くらいかけて慎重に撮りためて、習作を重ねていきました。ビデオカメラは際限なく撮れてしまいますが、フィルムは3分間の尺の中に、その時々のぐっときた瞬間の断片を集めていくことで、自分で撮った映像を咀嚼することができたんです。
- 誰かに師事することなく、独学で進められたのですか?
Kenshu Shintsubo: ずっと独学ですが、出会った友人たちからの影響は大きいですね。特に、当時横浜にあったBゼミというところで現代美術をやっていた坂本君という友人が非常に面白いひとで、彼には色々なことを教わりました。とても見る目がある人だったので、僕の写真のどれがいいかを教えてもらうときもあれば、彼の作品の撮影を手伝うこともありました。彼の友人だったグレゴリーというフランス人作家が母国で個展を開催するというのでフランスに行ったのですが、そこで出会った人々にも影響を受けましたね。写真を学ぶにあたって、日本は技術的な修練から入ることが多いけれど、彼らはそれと並行して概念的な部分から入っていた。26歳の頃に写真でやっていこうと決めてから、根本的な部分は8mmフィルムを回していたときと変わっていません。まず初期衝動があって、自分のやりたいことを最初につめるのが大事ですね。それから技術的な安定感が追いつくには、大体7年くらいかかるんだと思います。

[Rugged TimeScape, 2010] (c)Kenshu Shintsubo + Takashi Ikegami
- 新津保さんは以前、複雑系科学研究者の池上高志さんとのコラボレーション作品『Rugged TimeScape』を手がけられていますが、どういった経緯で始まったのですか?
Kenshu Shintsubo: 池上さんとは、元々交流のあった渋谷慶一郎さんのピアノコンサートで知り合いました。池上さんから映像を使った実験がしたいという話を持ちかけてもらって、それ以降のディスカッションから生まれた作品ですね。渋谷慶一郎さんと相対性理論『アワーミュージック』のジャケットに使用されたのですが、流体を使ったもので撮りたいと思って、煙や雲、森などを被写体とした図像を、池上さんによるプログラミングで解体し抽象化しています。

- はじめ、「INFOBAR A01」にあるレコーディング機能に着目されていましたが、作品にもフィールドレコーディングを使われるなど、音に対する造詣も深いですよね。
Kenshu Shintsubo: 音によって扱うことのできる抽象性と具象性の中間の領域は、自分が写真のなかでさぐっているものとつながっている気がします。自分の作品は光学的にとらえられないものへの関心がベースにあるので、音が醸成する空間の記憶や気配に興味があります。昔から実験音楽などは好きだったのですが、図形楽譜を用いるように風景写真からサウンドスケープを抽出できないかと思って、プログラムで写真から音響変換を試みたりもしました。ここでここでは音楽を作るというよりは、音を写真と等価の情報として扱っています。
- フィールドレコーディングと映像による作品『Sound Scape』はその点に繋がってくるのでしょうか。
あれは、2006年に葉山でレコーディングした音と、2010年に全く同じ場所を全く同じ時刻に訪れて撮影した映像による作品です。2006年に葉山の一色海岸の岬を訪れた際、ちょうど秋分に近い時期で、季節が変わる音がしたんです。すーっと夏が薄れていって、秋になっていく瞬間の音でした。それがとても良くて、その音の記憶を頼りに4年後、女優の早見あかりさんを連れて撮影しました。当時の音と映像を合わせることによって、4年間という長い時間の痕跡が凝縮された、たった1分間の映画が生まれたんです。

Spring Ephemeral, 2011 (c)Kenshu Shintsubo
- 早見あかりさんの透明感や、すっと振り向いた瞬間の表情が印象的でしたが、耳を澄ますと次第に音が持つ気配に引き込まれていきますね。
自然に人の行為の痕跡や人工物がはいると、自然がより際立って見えるんですね。あの映像には、自然や人に内在しているさまざまな変化が多層的に重なった瞬間が表れています。季節の境目と同じように、思春期の変化の「際」にある微細な境界をとらえたかったんです。この見えない境界が推移していく状態への関心はほかの作品にも通じている気がします。
-「INFOBAR A01」で撮影した写真からも、垣間見えてきた写真家の視点。新津保さんがとらえたかけがえのない瞬間が、自由にカスタマイズできるUIのホーム画面いっぱいに広がります。ユーザーがカスタマイズしたUIを投稿できる「INFOBAR+YOU」でも、自身の撮った写真を使ったさまざまなアイデアが見られます。新津保さん、ありがとうございました。
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Kenshu Shintsubo
東京都生まれ。写真家。 近作として、『Spring Ephemeral』『Sound Scape』『きこえる? School & Musicプロジェクト』(文藝春秋/東京大学知の構造化センターpingpong project)、複雑系科学の研究者・池上高志と発表した『Rugged TimeScape』(第14回文化庁メディア芸術祭審査員会推薦作品)、『思想地図βvol.2 震災以後』での東北地方のドキュメントなど。 展覧会:『文化庁メディア芸術祭ドルトムント展2011』 『堂島リバービエンナーレ2011』など。 作品集:『Spring Ephemeral_Binaural-Scape 3.17』 (FOIL)『記憶』(FOIL) 新津保建秀+池上高志『Rugged Time Scape』(FOIL) http://www.kenshu-shintsubo.com/
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