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日本が500年前に気付いてしまったこと Sun.15 2012




自分が独創的だと思うのは、我々が何も知らないからである。(ゲーテ)

「もったいない」という言葉は英語にすることが出来ない日本語の一つです。ノーベル平和賞を受賞したケニア人女性のワンガリ・マータイさんが「MOTTAINAI」として提唱したことは記憶に新しいところです。日本独自の感性はガラパゴス的過ぎるあまりに世界共通語では語れないアイデアを良くも悪くも沢山生み出しました。

植物業界でも例に漏れず、今から約500年前に素晴らしいアイデアが誕生しました。日本を語る上で外せない文化のひとつ「いけばな」です。皆さんはいけばなと聞いてどんなイメージを思い浮かべますか?世代によってイメージの相違はありそうですが、団塊世代以降の方々の共通認識は「植物を用いて自己の感性を表現すること」という所でしょう。果たして、いけばな=アート(自己表現)なんでしょうか?

今から約500年前、時は室町時代。京都六角堂の僧侶であった池坊専慶を開祖とする日本最古のいけばな流派「池坊」が誕生しました。池坊により生み出された「いけばな」とは文字通り、花を活かすこと。つまり、植物の最適な姿を導き出すことでした。作者の個性や奇をてらった表現とは対極に、素材の要求に対する素直さが最も優先されるべきことだったのです。料理で例えるならば寿司の様なものだったわけです。

いけばなは僧侶による供花としてはじまり、床の間を備えた書院造りの出現により定位置を得て室内の設えとしての地位を確固たるものとします。そして戦国時代を背景に、精神修養を目的とした武士の嗜み事の一つとして武家社会にも深く根を下ろし江戸時代に隆盛を極めます。切り取られ死へと向かう花と対峙し如何に活かすかを知る。戦乱の時代にいけばなの思想が武家社会にも支持されたのは大変興味深いですね。

そして更に時代は流れ、明治維新と二度の大戦を経て日本にも安定が訪れるといけばなをとりまく状況も一変していきます。床の間にあることを前提とした花型は古典花と呼ばれる様になり、現代の空間に適した型として生け手の自由な感性によって作られる「自由花」が各流派によって考案され、本来の概念は徐々に影を潜めていきます。そうして「アートとしてのいけばな」というイメージが形作られてゆき、今日に至ります。

いけばなの持つアートとしての側面は疑う余地もありません。特に自由花で最もよく知られる草月流創始者の勅使河原蒼風は、その前衛的な作風が没後もなお世界中で賞賛を浴び続けているスーパースターです。同時代を生きたダリやピカソと肩を並べた日本人アーティストとしての功績は計り知れません。しかし戦後60年のアートとしての功績も、いけばな500年の歴史からみると「側面」と言わざるをえないのは前述によるところです。

僕の実家は1919年創業のいけばな花材専門店です。約一世紀に渡り、池坊・草月流を筆頭に様々な流派の皆様を黒子としてお手伝いをさせて頂いてきました。流派の分け隔てなく裏方的にお手伝いをさせて頂いたことで、いけばなへの俯瞰した視点を得えたことは僕の貴重な財産となっています。アートとしてのいけばなも勿論大好きなんですが、僕個人としてはいけばな発祥当時のピュアな思想にとても興味を持っています。特に相手が植物という完成された素材だからこそ、作者の独創性に引き寄せるのではなく既にそこにある植物の個性を見いだし最大化することに大きな可能性を感じます。

「いけばな」は「もったいない」と同様、本質的に英訳することが非常に困難です。特にそのハードルを一段と上げているのが「活ける」という思想です。無理やり訳するならば “make it appropreate” あたりが適当でしょうが、どうにも畏敬の念が込められず的を得ません。そこにはやはり宗教観の違いに端を発する自然観の違いが大きく立ちはだかっています。自然の神格化が根底にあるアニミズムを欧米でも真に理解してもらうには中々骨を折りそうです。

しかし、だからこそ大きな可能性を感じているんです。繰り返しますが「活ける」は植物の最適化に他なりません。また、知覚心理学者ギブソンの提唱するアフォーダンスにも非常に密接な思想だと僕は考えています。それはまるで合気道のように、相手を許容し主従逆転した時にのみ訪れます。やや過大解釈してみると「自然との正しい付き合いかた」とも言えそうです。「活ける」は自然とのチームワークなくして達成することが出来ません。

20世紀に人類を大きく前進させたかに見えた欧米型資本主義は大量生産・大量消費によって真逆の結果を産み、自然と人類の間に埋め難い大きな溝を作ってしまいました。これからはアジアの時代だ、なんて方々でよく言われますね。僕は環境問題においても、アニミズムを根本にもつ東洋思想がこれからの世界を牽引していくと信じています。そしてそれには「活ける」いう思想が一役かってくれることでしょう。

http://twitter.com/n_kawahara