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Pinpin Co




描かれる人の記憶や経験を、今も残る傷跡や皺、血の流れと繋ぐように、その顔にペンを滑らせていく中国出身のアーティストのPinpin Co。数時間かけて生まれた美しい線は撮影後すぐに拭き取られてしまうが、制作が終わると、一瞬で消されてしまう作品の儚さとは対照的に、その空間は優しく温かな空気に包まれる。7月6日(金)から開催される公開制作・展示「”MORE THAN THE FACE” “MORE THAN THE WALL”」を控えたPinpinさんに会場となる横浜のBankART Studio NYKでお話を伺った。


- Pinpinさんは中国出身だそうですが、日本語は完全にネイティブですね。いつ日本にいらっしゃったのですか?

4歳の時に親と一緒に日本に来て、保育園からずっと日本の教育を受けてきました。子供の頃は毎年中国に帰っていたのですが、高校・大学時代は別の場所へ旅行するようになり、ここ2年程は制作などでまた何度か訪れるようになりました。


- プロフィールには、早稲田大学理工学部建築学科を卒業した後、大学院で東京藝術大学に進学されたとありますが、現在の顔に線を描く作品に辿り着くまでにどのような経緯があったのでしょうか?

大きなきっかけは、建築学科で修士設計として出した「都市ヲ想フ絵図」という作品です。これは、都市に地図を描くように顔に地図を描いて、それを繋げて出来た絵でした。都市と顔には共通点が多く、例えば、同じ要素を持っているのにそれぞれ特徴があったり、「空が泣く」など、顔の表現が都市で起きている現象の比喩的な意味として使われたりしますよね。その人の顔の特徴を自分なりに捉えていきながら絵を描くことが、ある意味で都市の特徴を捉えるトレーニングになるのではないかと思ったのです。その頃はまだ写真に描いていたのですが、その後に実際に顔に描くようになりました。




「都市ヲ想フ絵図」。下は拡大図。


- 具体的に顔にどのようなものを描いているのですか?

特定のモチーフがあるわけではありません。例えば、ある男性は口元に子供の頃に犬に噛まれた傷跡があったのですが、それはその人にとってトラウマだったり、人に言いたくない過去の出来事かもしれない。そういう話を聞き出しながらコミュニケーションを図って、その人に起きたことを紡ぎ出して表層化させています。それに加えて、顔を見ると肌の状態などから最近の状況も分かりますし、話をしていると表情がつくる皺が見えてきますので、そういうものもプロットしながら、印象に残った部分を拾っていきます。人によって顔に余白があったりなかったりしているのは、描き終わりのポイントが自分の描いた線とその人の表情や血の流れ、皮膚の下にあるものが融合した時だからです。それは論理的ではない単なる感覚で判断しているもので、これ以上描くとこの人の顔がなくなってしまうのでここで終わりにしよう、と思うこともあります。



制作中の様子。右がPinpinさん。


- 対話しながら描くというのは、カウンセラーを彷彿させる作業ですね。

初めはそういう風には思っていなかったのですが、モデルの方達からは「セラピーのような印象を受けた」という意見がありました。上手く言えないですが…私も今はモデルさんが患者さんのように感じていますね。初対面の方でもずっと肌が触れていますし。


- 制作には5時間ほどかかるそうですが、長い時間対話し肌に触れることで、モデルさんと仲良くなることもありますか?

ありますね。その良い例が、昨年中国で出会った女の子です。本人に描かせて欲しいとお願いして、彼女のお家で描いて、彼女の職場で写真を撮ったのですが、彼女の普段の生活を一緒に見ながら制作していくと、本人も自然体でいられるので、沢山お喋りして仲良くなりました。



中国で出会ったYuwe。


- 画材は何を使われていますか?

細い水性ペンです。細胞や血液の流れを意識しながら描いているので、できるだけそれに近い細さで描きたいですし、建築を勉強していたので、細いペンが手に馴染むんですよね。今使っている0.38ミリと0.5ミリのゲルインクのシグマのペンをとても気に入っています。


- 現在、ここ横浜のBankART Studio NYKで二ヶ月のアーティストインレジデンスに参加されていますが、7月6日(金)からはその締めくくりとなる公開制作・展示が行われますね。

これまでは、この人のことをもっと知りたいという基準でモデル探しをしていましたが、今回はホームページで募集をしたので、応募者をモデルにした作品の発表を行います。描く環境が同じ場所、同じ時間帯という設定になるので今までと状況が違いますが、逆にそれでどう変わるのかを自分自身で見てみたいという気持ちもあります。


- モデルさんを写真に収めた作品はすでにいくつか壁に貼られていますが、写真の背景は実際の壁と揃えてあり、まるでこの人達が本当にそこにいるかのように見えますね。

展示方法を考えた時、いつも最終的なアウトプットが写真であることが自分としては歯がゆいところなんです。生きているものに描いているのに写真だと静止してしまうし、臨場感も伝わりにくく、どうしても「写真」のクオリティで見られてしまいます。お金をかければ良い写真は撮れると思うのですが、私はそこを追求している訳ではないので、できるだけ写真の物質感みたいなものを無くしたくて、このような方法を選びました。BankArtにも二ヶ月滞在しているので、この空間も愛おしくて、ここで一緒に過ごした人々との記録を空間ごと展示したかったのです。



展示会場となるBankART Studio NYK。


- 今回、特に印象に残ったのはどのような方ですか?

制作の前夜に「薬を飲んでいるから朝起きられないかもしれない」と連絡をくれた方がいました。最初は何の話かわからなかったのですが、彼女は震災の時にヘリコプターで救助されていて、それ以来、精神的な病を背負って薬を飲んで生活しているんです。今は実家のある埼玉で暮らしていますが、趣味でボタンを作っていて、それに髪用のゴムを付けたものを被災地に送っているらしいんですよ。その活動のことを私がいつもモデルさんに渡すノートに書いてくれて、来た人に伝えて欲しいと言っていました。


- 先程、モデルさんと会話しながら描く様子や最後に優しく顔を拭き取っている様子を拝見しましたが、写真だけを見るのとは全く違うものだったので、ぜひ皆さんに制作の様子も見て頂きたいですね。

そうですね。実は完成した作品よりも、全てのプロセスが大事なんです。この作品は私にとって人とのコミュニケーション・ツールなのかなとも思います。とはいえ、私がコミュニケーション下手な訳ではないんですよ。たぶん、ただ話すだけでは物足りなくて、もう一歩踏み込んだ話を聞くことで、その人との関係を深めたいんだろうと思います。



顔を拭き取られているモデルさんの様子。制作中、二人の間に信頼関係が生まれたことがうかがえる。


- 7月11日(水)まで神宮前のIOSSELLIANI T-02-IOSで開催されている展示では、実のお父様をモデルにしていますが、その時はどうでしたか?

父は今、青森に住んでいて、実は私は小さい頃から父と離れて暮らしているんです。制作期間中は1ヶ月間、週一で父と会って、父が行く場所についていって描いていたのですが、最初はすごく戸惑いを感じました。他人の肌に触れるのと身内の肌に触れるのは全く違う感覚で、父の唇に触れた時に、なんとも言えない嫌な感情が湧いたりもしました。今まであまり見ることのなかった父の私生活も見えて…とても不思議な距離感でしたね。でも、一度だけならそういう感情しか残らないですが、三回描いたので父との距離は確実に縮まりました。最初は聞きにくい話もありましたが、最後は会話がなくなるくらい喋った気がします。父の作品は、描き上がった写真だけでなく、父のところに向かう場面や、一緒に食事をしている場面など一連の様子を写真に収めていているんです。



他にはない緊張感が漂う、実父をモデルにした作品。


- 今後の予定は?

今は決まった背景で描いていますが、旅をしながらモデルを一人探して、次はその人に紹介してもらった人を描いたり…そんなことをしてみたいですね。するとひとつの繋がりができて、それが作品の背景としてあれば面白いかなと思っています。あとは、もう一度今回のモデルさん達を集めて何か企画をしたいですね。この作品が終わったから終わりなのではなく、この作品が新たな出会いのきっかけになればいいなと思っています。BankARTでは毎日描くごとに写真を壁に貼っているので、モデルさんも他の人の写真を見ますし、そうするとなんとなく知り合いになった気持ちにもなるらしいんです。そんな人達が一堂に会したら面白いことが起こる気がしています。顔と顔をきちんと合わせることは、いつの時代でもとても大事なことだと思っています。





Pinpin Co
1983年、中国浙江省生まれ。4歳で日本に渡り、現在も絵、彫刻、パフォーマンスなどを行いながら東京で活動中。2006年、早稲田大学理工学部建築学科を卒業した後、2009年に東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。2012年6月30日には、BAMBA BOOKSより作品集「RECORD」が発売されている。
http://www.pinpinco.com/


「たどりつむぐきせき」
会期:開催中~2012年7月11日(水)
会場:IOSSELLIANI T-02-IOS
住所:東京都渋谷区神宮前5-1-15 2F
開館:12:00~19:30(不定休)
http://www.hpfrance.com/iosselliani/


BankART Studio NYK

ARTIST in Residens OPEN STUDIO
「”MORE THAN THE FACE” “MORE THAN THE WALL”」
会期:2012年7月6日(金)~7月16日(月)
会場:BankART Studio NYK
住所:横浜市中区海岸通り3-9
開館:11:30~19:00(最終日18:00まで)
http://www.bankart1929.com/

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