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Henry Chu




現在アジアで活躍中のクリエイターの多くが香港出身であるように、今日ご紹介するヘンリー・チュウもまた香港生まれのニューメディア・アーティストでインタラクティブ・ウェブデザイナー。彼の遊び心溢れる作品は、これまで数多くの国内外のクリエイティブ賞を受賞し、代表作のひとつ「Sound Yeah」は、ルイ・ヴィトンが選ぶ刺激的なデジタル作品を集めたサイト「Digital Discoveries」でも取り上げられた。現在も香港でクリエイティブ・スタジオ「pill&pillow」を率いながら活躍するヘンリー・チュウ氏にアーティストになったきっかけや作品についてお話をうかがった。


- 何がきっかけでニューメディア・アーティスト/インタラクティブ・ウェブデザイナーの道に進んだのですか?

子供の頃、テレビゲームが大好きだったのですが、父親に「ゲームで遊ぶ事は時間の無駄で脳の発達にも良くない」と言われ、あまり遊ばせて貰えませんでした。それからというもの自分でゲームを作るようになり、12歳からプログラミングを勉強し始めました。その後、ニュージーランドのオークランド大学で電気電子工学の学位を取得したのですが、本格的にプログラミングの腕を磨き始めたのは卒業後です。1999年にFlashを学び始めた時、限られたコーディングで色々なものを作れることに本当に驚きました。当時、Flashはあまり技術寄りではない人々にとって簡単に始められるものだったので、僕もまたFlashユーザーとなり色々な実験をするようになりました。ちなみに、今はもう存在しない僕の最初のウェブサイト「exvis.net」は、「Experiment Vision Network」の頭文字を取ったFlashとDirectorで実験的なことを行ったサイトでした。多くのFlashデザイナーがそうであるように、僕も中村勇吾さんの大ファンで、彼の作品にインスパイアされただけでなく、彼のおかげでコードでデザインできることを知りました。それからはプロセッシング、オープンフレームワークス、HTML5などを試すようになりましたが、ある時、実験ばかりせずに、アイディアを作品に落とし込むべきだと気づいたのです。


録音したサウンドデータを様々な方法で操作することができるiPadアプリ「Sound Yeah」は、ルイ・ヴィトンのサイト「Digital Discoveries」でも取り上げられた。


- ヘンリーさんはこれまでに数々の素晴らしいiPhone/iPadアプリを制作していらっしゃいますが、先日香港で開催された「インディペンデント・フィルム&ビデオ・アワード・フェスティバル」(ifva)でも展示された「Squiggle」について教えてください。

元々音楽が大好きなのですが、楽器が苦手なので誰よりも上手く弾けるものを作りたと思っていました。2006年に自分で描いた線を弦楽器に変えられないだろうか、と思い制作したこの「Squiggle」は、iPadのデバックがアイディアのきっかけでした。


「Squiggle」は、自分で描いた線がそのまま楽器に早変わりするiPhone/iPadアプリ。楽しいアイディアだけでなく、ポップなグラフィックも彼の作品の特徴。


- ほかに最近の作品で気に入っているものを教えていただけますか?

「Reflection」ですね。これは香港で最も古い監獄で発表したインスタレーションで、キネクトのセンサーを使って3秒遅れる影が出るというものです。僕が何かと複雑なコーディングをしがちなので、この作品のシンプルなところが気に入っています。コンセプトとプログラミングは最小限で、展示場所は重要な役割を果たしていました。この作品は過去の自分との対話を確立させようという試みでした。


香港のクリエイティブを世界に向けて発信する「Detour 2010」の一環として発表された「Reflection」。


この作品は1841年に建設された香港のビクトリア監獄で展示された。


- 作品のアイディアはいつもどこから生まれるのですか?

僕の作品はまだ実現されていない願望を叶えるためのものです。本物の楽器を作るよりもバーチャルな楽器を作った方が簡単なように、バーチャルな世界では夢を叶えることが容易です。僕は幾何学的なオブジェクトようにグラフィック性の高い形にインスピレーションを受けることが多く、これを動かすとどうなるだろうといつも想像してしまうんですよ。






香港デザイン協会が主催するデザインアワード「HKDA Global Design Awards」で銅賞を獲得した「The Breaking News」は、Yahoo!のRSSフィードを表示するニュース・リーダー。暗いニュースが多い今の世の中を象徴するように、表示された文字は画面下へ落下すると同時にバラバラになる。実際のサイトの「China」「Hong Kong」「Japan」のいずれかをクリックすると閲覧できる。


- ヘンリーさんの作品には音楽を用いたものが多いですが、それ以外の不可欠な要素はありますか?

“力”でしょうか。僕の作品の動きには、いつもある種の”力”があると思います。僕はリアルタイムの動きが好きで、物理シミュレーションや流体力学を何度も使ってきました。既存のエンジンを利用することもあれば、自分で書くこともあります。時々、じっと画面を見て、どのようにパーティクルが動くのかを観察することがあるのですが、おそらく僕はバーチャル・オブジェクトが実はバーチャルではないのだと人に信じさせようとしている部分があるのだと思います。



18種類の顔をモチーフにしたサウンドアプリ「Squeal」。目や鼻を触わりサウンドを操ることができる。


- 香港はヘンリーさん以外にもフランシス・ラムさんやミュウリン・ラムさんなど優秀なデジタルメディア・アーティストを大勢輩出しています。それはなぜだと思われますか?

香港がデジタルメディアに溢れた街だからでしょうか。ガジェットはそこら中にありますし、誰もが最新版を使いたがります。僕たちはテレビ、ビデオゲーム、コンピューターのいずれかで育った世代で、フランシスもミュウリンも僕も間違いなくデジタルメディアに影響を受けましたが、作品を通してそれぞれの異なる芸術的センスを表現したいと思っています。香港の歴史は短く、文化の全ては輸入されたものです。このような賑やかな街では、機械が僕たちの第六感となり、世の中を見るためにそれに頼ってしまいがちな部分もあります。


- 香港のデジタルメディア・シーンの現状についてどう思われますか?

個人的には、流行を追いすぎているところがあると思います。新しくてユニークなものを見ることはそうはありません。ウェブサイトとアプリの仕事は数多くありますが、クライアントからはあまり高いレベルを要求されません。平均より少し良ければ制作費も少なくて済みますからね。


- 香港のデザイナーやアーティストで今注目の方を一組教えてください。

若手のメディアアーティストでミュージシャンのChris Cheung Hon Himです。彼はエレクトロ系のバンドでもプレイし、XEX GRPクリエイティブ・スタジオのメンバーでもあり、とても格好良いものを作りますね。


Chris Cheung Hon Himの「No Longer Right」。現代的な生活のなかで徐々に忘れられはじめている手書きの良さを再発見するプロジェクト。


- 今後の目標は?

会社を小規模で維持し、メンバーとは固く結束し続け、世の中の人々に影響を与えられる作品をもっと作っていきたいです。


- 最後に、香港でインスピレーションを受ける場所をひとつ教えてください。

大排檔(ダイバイドン)と呼ばれる地元の屋外カフェで毎日朝食をとるのが僕の日課です。タクシー運転手、デザイナー、主婦、バイカー、不動産屋、料理人、自動車修理工、ライター、ショップオーナーなど様々な人の人間ウォッチングをするのはとても刺激を受けますし、みんな大声で自分の話をしているので秘密のない場所なんですよ。



ヘンリー・チュウ氏。


Henry Chu(ヘンリー・チュウ)

香港を拠点にするニューメディア・アーティスト/インタラクティブ・ウェブデザイナー。ニュージーランドのオークランド大学で電気電子工学の学位を取得した後、生まれ故郷の香港に戻り、98年にデジタルデザインのキャリアをスタート。2004年には、デザインスタジオ「pill&pillow」を自ら立ち上げ、Favourite Website Awards(FWA)、HKDA Awards、ロンドン国際広告賞などで数々の賞を受賞している。また、香港理工大学、香港市立大学創造メディア部、The Art Schoolのゲスト講師を務め、2007年には香港デザイナー協会(HKDA)の実行委員に就任。同年、ロンドン国際広告賞のデジタルメディア部門の審査員と2007年、2008年のFavourite Website Awards(FWA)のサイト・オブ・ザ・イヤーの審査員も務めている。

http://www.pillandpillow.com

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